TDBとTSRの評点

TDB TSRの評点

中小企業の財務担当者は、帝国データバンク(TDB)東京商工リサーチ(TSR)とのコミュニケートを大切にしなければなりまぜん。
それは自社に関するTDB・TSRの「評点」を上げる必要があるからです。

TDBやTSRの「評点」は大切です。
中小企業は上場企業のように有価証券報告書を開示しません。
ですから第三者がどこかの中小企業の信用状況を調べたいとき、ほとんどの場合TDBかTSRの「企業情報」を見て「評点」を確認するからです。
今は誰でもネットで簡単にTDB・TSRの「企業情報」を見ることができます。
自社に製品・サービスを納入しているサプライヤーは定期的に見ているでしょう。
回収懸念はないかと。
自社が製品・サービスを納入している先が大企業であれば、その大企業も定期的に見ているでしょう。
将来の調達懸念はないかと。

でも一番見ているのは、意外に感じるかもしれませんが、銀行です。
それもすでに自社に融資をしている銀行
すでに融資をしているのであれば、決算書類も提出しているし直接ヒアリングもしているので、わざわざTDBの企業情報を見る必要はなさそうですが、現実は違います。
常にTDB・TSRの評点を確認し、それを貸出稟議の拠り所にしたりもします。
銀行自体も銀行担当者も、融資が焦げ付いた時の責任回避のために、「評点」を拠り所にするのです。
ですから、中小企業の財務担当者は、良い決算書をまとめて満足するのではなく、それをTDB・TSRの評点に反映させるところまでやらなければなりません

では、中小企業はどのくらいの点数がついていれば良いのか。
中小企業であれば、50点以上あれば「懸念なし」と見なされるので、まずはこれをクリアしたいところです。
60点もあれば優良企業です。
70点以上あるのは上場企業に準じた超優良企業です。
逆に多くの中小企業の評点は、50点未満です
50点未満は、「企業情報」では数字ではなく、記号で表記されます。
TDB : D1 (49~47点)  D2 (46~44点)  D3 (43~40点)
D4 (40点未満)
TSR : W (49~47点)   X (46~44点)   Y (43~41点)
Z (40点以下)

以前、地方銀行の融資課長から、D1点、W点なら十分融資対象になると聞いたことがあります。
また上場企業(製造業)の調達担当から、60点以上の会社であれば信用管理を別扱いにするとも聞いたことがあります。

ですから財務担当者は決算後に毎年TDB・TSR担当者とコミュニケートし、自社の「評点」を上げることに努めなければなりません。
しっかりコミュニケートして情報開示するだけでも、評点は上がります。
間違ってもTDB・TSRからの調査依頼書をゴミ箱直行にしないように!

10年後土地は半額になる、と考える

将来土地は半額になるかもしれない、と考える

以前、宝飾品を扱う会社の社長から相談を受けたことがあります。
「自分が引退するまでに、会社の借入を全部返すことはできそうもない。
どうしたらええんでしょう」
会社の年商は10億足らず、借入は合計3億。
社長は現在65歳。
75歳で引退するとして、残り10年で3億をゼロにするのは到底無理、とのこと。

この社長もそうですが、多くの中小企業の社長は未だに自分の会社の借入についてガッツリ連帯保証しています。
そのため、借入が相当残った状況では引退すらできないのではないか、そんな心配をしているようです。

その会社の決算書を見ると、固定資産の部に「差入保証金」90百万がありました。
差入先は、ルミネやアトレ、イオンなど優良な先ばかり。
全国の優良なショッピングモールに出店している同社は、結構な額の保証金を差し入れているのです。
「社長、この保証金90百万はいつか還ってくるお金、返済に充てられるお金だから、3億から引きましょう」
結果、実質的な借入残は210百万になりました。

また、決算書の固定資産の部には「土地」150百万がありました。
本社ビルの敷地です。
土地は処分したらお金になって還ってくるのだから、これも210百万から引いて考えることもできます。
しかし、土地は相場で値上がり、値下がりします。
処分したときにいくらのお金になって還ってくるか分かりません。
どう考えるか。
こういう場合は、単純に「10年後半額」として計算します。
土地の値下がりリスクを考えるとき、「10年後半額」はリスクを十分反映しているでしょう。
30年後ならもっと値下がりするかもしれませんが。
「社長、10年後土地を処分したら、少なくとも簿価150百万の半分75百万はお金で還ってくるでしょうから、それも返済に充てられるので、210百万から引きましょう」
結果、実質的な借入残は135百万になりました。

つまり、この社長は向こう10年間で135百万をしっかり返していけば良いのです。
300百万返す必要はありません。
可能であれば現在の借入300百万を1本にまとめて、10年後社長が75歳のときに残高が165百万になるよう長期借入を組み替えるとよいでしょう。
その間は新たな借入はせず、しっかり返済を進める。

このように、10年後の土地の簿価が半額になるとして財務チェックすることは有益です。
多くの会社で、「土地」は貸借対照表の資産で大きな割合を占めています。
その「土地簿価」を半額に置き換えると、自己資本比率はどうなるか。
借入額から「土地簿価の半額」を引いた実質借入残、それを10年で返済することができるか。
全ての会社で使えるセルフチェック法です。

儲かっているときは、石垣の小石を抜いてはいけない

儲かっているときは、石垣の小石を抜いてはいけない

儲かっている中小企業、強い中小企業の利益構造をイメージするなら、それは上手に積まれた「石垣」です。
大きい石の間に小さい石を上手に詰め込んだ石垣。
コンクリートを流し込まなくても、百年以上風雪に耐えている「石垣」。
この場合の「石」とは、「製品」であったり「顧客」であったり「仕事」であったり、です。

例えば、ある製造業の中小企業A社は、10種類の製品を作っているとします。
その中で「主力製品」は2種類、これだけで全体の売上の80%を占めています。
残りの「非主力製品」8種類で売上の20%
いわゆる「パレートの法則」です。
現実、主力・非主力のバランスがこうなっている会社は多いでしょう。
「石垣」に言い換えると、「大きな石」が数では2割だけど占有面積は8割、その隙間に詰められた「小さな石」は数では8割だけど占有面積は2割。

「パレートの法則」では、占有率の高い2割の「製品」「顧客」を大切にしなさい、と説きます。
しかし中小企業は、それを100%真に受けてはいけません
なぜか。
例えば前出のA社の利益構造が、
2種類の主力製品の「直接粗利」だけで、会社全体の「間接費」を賄っているとします。
そうすると「非主力製品」の「直接粗利」はそのまま会社の利益として残ることになります。
一見小さく見える「非主力製品」の「直接粗利」も、そのまま残るのであれば、会社にとって大きなインパクトになります。
※直接粗利-間接費=営業利益

これをもっと具体的に、工場の製造ラインでイメージします。
A社では2種類の主力製品を優先した製造ラインを作っているでしょう。
非主力製品はそのラインの隙間で製造しています。
パレートが言うように主力製品に特化してその売上を伸ばそうとすると、製造ラインの大掛かりな拡張が必要になります。
主力製品を増やせば、製造ラインの隙間も増えるかもしれません。

中小企業では常に「人・モノ・カネ」が不足しています。
限られた資源、限られたキャパシティの中で利益を最大にするには、キャパシティの中をフル稼働させるのが最も確実に利益を出す方法です。
隙間を埋めてフル稼働に近づけているのは、「小さな石」です。
ですから、儲かっているときは「小さな石」を軽視して簡単に抜いてはいけません。

儲かっている中小企業、強い中小企業は、「大きな石」と「小さな石」の積み方が上手なのです。

公平な売上目標を設定する方法

昨対トレンド

売上目標を設定するとき、部門間・店舗間で公平な目標にすることは簡単ではありません。
月が終わって、月間の売上結果を振り返るとき
「ウチの店は目標が高すぎる」
「あの店ならあの程度の目標は達成して当たり前」
など、不満を漏らす店長もいます。
しかし、売上目標を設定する本部は、その店の状況を加味したうえで設定しているわけですから、そんなに不公平なわけではないでしょう。

では、なぜ店長は売上目標に対して不満を感じるのか。
それは、目標設定に本部の「恣意」、平たく言えば「鉛筆なめ」を感じてしまうからです。
本当はそんなに不公平ではないのに、本部の「人」が介在するために、「人のエラー」のせいにしたがるのです。

そこで、できるだけ「人」を排除して、目標設定を自動化する方法を紹介します。

例として、売上好調なA店と、売上不振のB店の9月の売上目標設定をします。

<過去3ヵ月の売上状況>   (千円)
6月 7月 8月 平均 9月
A店 売上 6,200 7,300 6,800
昨年売上 5,610 6,710 5,700 5,900
昨対 110.5% 108.8% 119.3% 112.9%
B店 売上 5,800 6,500 6,100
昨年売上 6,480 6,900 6,690 6,700
昨対 89.5% 94.2% 91.2% 91.6%

赤色の数字は、直近3ヵ月の昨対の単純平均(売上の大小で加重平均しません)。
これは、それぞれの店の足元の状況が上向きか下向きかを表しています。
ここでは、この数字を勝手に、「昨対トレンド」と呼びます。
この昨対トレンドを使って、次月9月の売上予測をします。
A店の9月売上予測=昨年9月売上5,900千×112.9%=6,661千
B店の9月売上予測=昨年9月売上6,700千×91.6%=6,137千

この予測に対して両店とも103%をかけて目標とします。
A店の9月売上目標=6,661千×103%=6,861千 (昨対116.3%に相当)
B店の9月売上目標=6,137千×103%=6,321千 (昨対94.3%に相当)

この目標設定は、
好調な店であろうと不振な店であろうと、店のスタッフがすべきことは、「店の状況を今より少しずつ良くしていくこと」
という、当たり前で、現実的で、普遍的な考えに基づいています。
そこに「不公平」はありません。

この目標設定のプロセスで恣意的な数字は、最後の103%だけです。
直近3ヵ月の売上も、昨年対比もすべて実績値ですから、動かしようがありません。
この103%も全社で事前に設定してしまえば、月末に当月売上が締まった瞬間に次月の目標が自動的に決まります
そこに「人」の介在はありません。
だから結果を「人のせい」にもできません。

「昨対トレンド」で、目標設定を自動化する。
今後、AIが目標設定するなら、こんな感じになるのではないでしょうか。

グラビアを見るように、「貸借対照表」を見る

グラビアを見るように「貸借対照表」を見る

財務諸表に精通していない人が「貸借対照表」を見ても、それは機械的に数字を並べた紙(シート)にしか見えないでしょう。
左右それぞれの合計が均衡した、文字通りのバランスシートに。

しかし財務担当者は違います。
財務担当者は、新聞を読むように「貸借対照表」を読みます
その中には会社の現在の「強み・弱み」だけじゃなく、「創業以来の歴史」や「経営方針」などいろんな情報が詰まっているからです。
じっくり読みたいと思ったら一時間でも二時間でも眺めていられます。
財務担当者にとって貸借対照表は、機械的に並べた数字の羅列ではないのです。

また、財務担当者は、グラビアを見るように「貸借対照表」を見ることが出来ます
科目一つひとつの数字の大小や、科目同士の関係が、その会社の特徴を立体的に見せてくれるからです。
少し下品な言い方ですが、いい会社の貸借対照表は、「ボン・キュッ・ボン」に見えます。
ずっと眺めていられます。
財務担当者にとって貸借対照表は、平面的な「シート」ではなく「立体」なのです。

しかし、財務担当者は眺めているだけではダメです。
財務担当者のもっとも基本的な仕事は、見えている立体を削っていくこと
自社が目指す「ボン・キュッ・ボン」に近づけるためにどこを削るか、場合によってはどこに肉付けをするか
それをするためには、常に貸借対照表の状況をチェックしておかなくてはいけません。
毎日、風呂に入る前に体重計に乗り、風呂から上がれば鏡で全身をくまなくチェックする。
この日々の積み重ねがあって初めて、いい会社の貸借対照表は出来上がるのです。

「損益計算書」のチェックはみんなしますが、「貸借対照表」のチェックは財務担当者しかしません
こまめにチェックしましょう。