トヨタが認める、「マツダ」の強み

トヨタが認める、「マツダ」の強み

日本の自動車メーカーの中で、総合力ではトヨタが断トツであることは、疑う余地もありません。
自動車業界にとどまらず、日本の製造業の中心として産業界を牽引する存在であることも間違いありません。
その巨人「トヨタ」がここ数年、マツダとの関係を近く、強いものにしてきています
今年10月には、相互に500億円払い込み、株式を持ち合う形で資本提携が実現しました。

トヨタはなぜマツダと資本提携したのか。
これに至るまでのプロセスのきっかけになった、有名なエピソードがあります。
11月14日の日経新聞にも紹介されていました。
2014年7月、山口県美祢市にあるマツダのテストコースでのこと。
トヨタ・豊田章夫社長とマツダ・小飼社長とのトップ会談がセットされました。
小飼社長が豊田社長を案内したテストコースは高速コースではなく、時速30キロ程度で走る通路状のコースでした。
そこで乗り比べたのは、トヨタ・プリウスとマツダ・アクセラ。
このアクセラには、トヨタ製のハイブリッド、つまりプリウスと同じハイブリッドが積まれています。
そのテストラン結果に、トヨタ側のメンバーがショックを受けることになります。
プリウスがカーブでアクセルを踏むと、外に膨らんでしまうのに対し、アクセラは膨らむことなくキレイに曲がっていく。
トヨタのスタッフから、「気持ちよくスーッと曲がれた」という感想が出ました。
豊田社長はじめトヨタ幹部が、マツダの技術の高さを実感した瞬間でした。
同時に、「テストコースについての考え方」の違いにも少なからず驚きがあったのではないでしょうか。

トヨタが認めているマツダの強さはそれだけではありません。
前出の日経新聞には、トヨタ・寺師副社長の
「少ない経営資源で多様な車を開発する力は、マツダが上」
というコメントが出ていました。
これに関係する話を、マツダのエンジニアから聞いたことがあります。
例えば、新型エンジンの開発手法にも両社には大きな違いがあるとのこと。
トヨタでは新型エンジンの完成までには、何回かエンジンの「実物」を試作します。
マツダではそういった「実物」試作をほとんどすることなく、完成に辿り着きます。
実際、マツダが来年投入する新型エンジン「HCCI」、世界が驚いたこの究極の高効率ガソリンエンジンも、試作を繰り返すことなく完成したそうです。
試作エンジンを一つ作るだけでも、「数十億」といった莫大なコストと時間がかかります。
その試作を数回減らせれば、それだけでも開発費の大幅な削減になるのです。

マツダは、コンピュータでのシミュレーションを高度化することで、「試作」を代用します。
つまり、試作のエンジンの中ではなく、コンピュータの中で高度な「燃焼実験」を繰り返すのです。
シミュレーションの範囲を広げ、精度を高め、極力「試作」を減らす。
それを永年やり続けた結果、トヨタに先んじてエンジン開発費の大幅削減に成功したのです。

ではなぜマツダは早くから「シミュレーション開発」に着目したのか。
それは単純に「資金力」が無かったからです。
資金力のあるトヨタが、エンジン開発の常識として「試作」を繰り返すのに対し、マツダが同じ手法をとったなら、1エンジン型式当たりの販売台数が少ないマツダはごっそり体力を削がれてしまいます。
同じ自動車業界で競争力を保つためには、コンピュータを活用することで、「試作」を減らすほかなかったのです。

他業界から見れば、あのトヨタの方が古い開発手法を引きずっている、というのは意外なことと映ります。
しかしどの業界も、「巨人」といわれる企業が、自己否定・自己改革することは簡単なことではありません。
むしろトヨタのすごさは、最近その自己否定・自己改革を推し進めようという覚悟が見えるところです。
「マツダ」との資本提携も、その自己改革の一環と見るべきでしょう。

余談ですが、世界中の自動車メーカーが実用化を目指した「HCCI」エンジンを、マツダが最初に実用化できたのは、もしかするとこの「コンピュータシミュレーション」の副産物だったのかも知れませんね。

マツダは新型エンジンで、逆張り戦略を手に入れた

 

マツダが来年投入する新型エンジンは、どえらいエンジンです。
今流行りのハイブリッドやディーゼルではなく、もちろんEV(電気自動車)でもない、ガソリンエンジンです。
「HCCI燃焼」という究極の高効率燃焼理論を、世界で初めて実用化したのです。
この新型エンジンで、燃費は従来比30%アップするとのこと。
小型のデミオクラスで、燃費は24.6 → 32.0km/Lに伸びます。
ハイブリッドのアクアが37 km/L、フィットが33.6 km/Lですから、ガソリン車でありながらかなり近い数字を叩き出しているのです。

それにしても毎日のように新聞紙上に、自動車業界がEVに向かっている記事が載っている今、なぜ新型ガソリンエンジンなのか。
非常にタイミングの悪い開発のようにも見えます。
しかしこのマツダのHCCI実用化には、重要な意味があります。
それは究極のガソリンエンジンに辿り着いたという意義です。

今、欧州各国は、EVへの転換競争を始めています。
フランスでは2040年までに純粋なガソリンエンジン、ディーゼルエンジンの生産・販売を禁止するとの声明を出しています。
つまりEVやハイブリッドなど、モーターを積んだ車しか認可しないのです。
そういう国の方針に沿って、ボルボなど自動車メーカーもEVへの完全移行を計画しています。

このEVへの完全移行を目指す目的は、環境負荷の軽減と、排ガスによる健康被害の抑制。
確かにその目的に照らして車1台を比べれば、EVに分があります。
しかしそもそも、その電気がどう作られて、どう運ばれてくるかが決まらなければ、EVへの転換が環境負荷を軽減するかどうかは分かりません。
発電所でバンバン石炭や石油を燃やして、その電気でEVを走らせては、目的から外れてしまいます。
つまり、世界がEVへの転換に向かうのは間違いないのですが、100%EVになるのがベストかどうかは、まだ誰にも判断できないのです。

20年後のエネルギーのベストミックスの状況によっては、ガソリン車も一定割合で残る可能性もあります。
もし一定割合でガソリン車を残すなら、それはマツダが実用化したHCCIでしょう。
どの会社も実用化を目指していたHCCI。
それをいち早く手に入れたマツダは、EV化の逆張り戦略も手に入れたと言えるかも知れません。
大成功の可能性もアリです。