「厳しい社長」と「優しい社長」

「厳しい社長」と「優しい社長」

「厳しい社長」と「優しい社長」、
良い会社をつくるには、社長はどちらのタイプが良いでしょう。
これは、「掃除道」で有名な経営コンサルタント、今村暁氏の講演で、講師から出た問いかけです。

トップダウンでみんなをぐいぐい引っ張る「厳しい社長」
包容力でみんなのヤル気を引き出す「優しい社長」
どちらにも長所・短所があるなあ、と考えを巡らせ、決めかねていると、
今村氏は、
「ごめんなさい、答えはどちらでもいいんです。社員全員が規律を守ることができていれば
氏曰く、
「良い会社」を数多く見てきた経験から言えば、そこには「厳しい社長」も「優しい社長」も「普通の社長」もいる。
ただすべての「良い会社」に共通しているのは、社員全員が「規律」を大切にして行動していること。
時間を守り、ビジネスマナーを守り、業務上の秘密を守り、就業規則を守る。
社長がいようがいまいが、他人の目があろうがなかろうが関係なく。

私も社会人になって30年余り、銀行員時代を含めこれまで何千もの会社を訪問しました。
その中で、社員の振る舞いが印象的だった(感動した)会社が2社あります。
神戸の「ワールド」本社と、東京の「セブン&アイ・ホールディングス」本社です。
30年前、銀行員としてワールド本社を訪問した際、たまたまエレベータに乗り合わせた4、5名の社員の振る舞いは、とてもスマートで気遣いを感じられるものでした。
私をどの部署の誰の客、というのではなく、「ワールドの客」として丁寧に扱ってもらいました。
どう丁寧に扱われたかを説明するのは難しいのですが、お客がいれば無駄話はせず、適度な距離を保ち、自然な目線や落ち着いた声のトーンなど、もろもろの所作にそれを感じたのでしょう。
とにかく、「さすがワールド!」と思ったのをいまだに覚えています。

15年前、ショッピングモールへの雑貨店出店の打ち合わせのため、セブン&アイ本社を訪問した際も、エレベータで同じ体験をしました。
いろんな流通大手にも通っていたので、その接客レベルの違いに、「さすがセブン!」と思ったのを覚えています。

どこかの会社を訪問したとき、訪問先の担当者ではなく、もちろん社長でもなく、たまたま乗り合わせた社員に感動し、その会社を「さすが!」と思う
社長が厳しかろうが優しかろうが、それを確認しなくても、エレベータに乗り合わせた数名の社員を見れば、その会社が良い会社であることは分かります。

この2社は言わずと知れた業界を代表する会社ですが、中小企業であってもお客の感じ方は同じはず。
会社が目指すべきところも同じでしょう。

「客を囲い込まない」という戦略

ゴルフ練習場

いつも利用しているゴルフ練習場の社長と話をする機会がありました。
40代のその社長の経営方針は、「お客を囲い込まないこと」だそう。

その練習場は私たちの会社から一番近いので、週に一、二回会社帰りに利用するのですが、何といっても料金が安い。
球貸機に500円入れると100球以上出てきます。
平日の夕方ならこれだけで十分。
間違って1000円札を投入しようものなら、夜遅くまで帰れなくなってしまいます。
設備的には、流行りの自動ティーアップ機やスイングチェックマシンなどはなく、お世辞にも美しいとは言えない施設ですが、いつ行ってもお客は多くいます。

私は率直に、こんなに安くして儲かるのか訊きました。
社長いわく、「これ以上取る必要がない」とのこと。
「大した設備も入れていないから、償却負担もほとんどない。
まとまった出費は、マットとボールを入れ替えるときくらいかな。」
なるほど、最新鋭の設備を導入して集客を図るのではなく、導入しないことで浮いたコストを料金に反映させて集客を図っているんですね。

でも社長が「自動ティーアップ機」を導入しないもっと大切な理由がありました。
それは冒頭に書いた、「お客を囲い込まない」ためです。
ティーアップ機を入れると、お客にカードを持たせることになる。
するとお客の財布の中にまた一枚カードが増える。
社長は、「お客を囲い込まない」=「お客の自由度を最優先する」と考えているのです。

その練習場では、お客が打席に行くときフロントを通りません。
お客は自由に練習場に入り、好きな打席を選び、球貸機に現金を入れて要るだけ球を買う。
練習したいだけして、終わったらそのままサッと帰る。
誰にも管理されることなく、誰とも話す必要もなく、すべて自分のペースで遊んで帰るのです。

考えてみれば、何年もこの練習場に通っているのですが、今回知人に紹介されるまでこの練習場の社長や支配人がどんな人なのか知りませんでした。
フロントを通らないから。

会員カードやポイント制が全盛な昨今、「囲い込まない戦略」がとても新鮮に感じました。

社長は常に、情報「圏外」にいる

社長は常に、情報「圏外」にいる

 

ほぼすべての会社で、社長に正確な情報が上がっていません
社長が厳しいタイプであっても、優しいタイプであっても、正しい情報がそのまま上がることはありません。

報告する側についても、役員であろうと、新入社員であろうと同じです。
➀ 社長の顔色・機嫌を伺い、
➁ タイミングを計り、
➂ 自分に危害が及ばないように言葉を選び、
➃ 若干の脚色を加えたものをオブラートに包んで、
➄ 場合によっては、都合のいい話に差し替えて、
報告します。
しかし、このちょっとした脚色や薄いオブラートでさえも、社長の間違った経営判断の原因になることがあります。

どの会社にもあるこの問題を、どうすれば解消することができるのか。
結論は、社長が「間違えないための能力」を身につけるしかありません
報告する側の社員を変えることは非常に難しいことです。

社長が身につけるべき「間違えないための能力」とは、
1. 社員は自分に正しい情報を伝えない、それが現実だと割り切る力
2. 経営や営業に関する情報を、数値で正確に把握する力

この2つの能力を身につけた社長は、社員からの報告を鵜呑みにしません。
社員から報告を受ける時には、自分の中にあるデータとの整合性をチェックします。
報告が自分のデータと相反するものであれば、それを究明します。
つまり、社員の報告も一つのデータとして受け取るのです。
ザックリとした社員の報告を鵜呑みにして右往左往したり、一喜一憂することはありません。

社長がそのように、社員の報告を一つのデータとして情報処理するようになれば、社員の脚色もだんだん少なくなるでしょう。
すべては社長次第です。

頑張り過ぎないための「財務」

頑張り過ぎないための「財務」

 

中小企業の社長は、ほぼ全員が頑張り屋です。
特に自分で事業を立ち上げた創業社長は間違いなく頑張り屋です。
社長が頑張り屋だから会社を成長させることが出来たのでしょう。
しかし、会社がおかしくなるのも、社長の頑張りが原因であることが多いです。

事業を起こした人の大半は、何かの「きっかけ」があり、その事業に取り組むことが「必然」と考えたのではないでしょうか。
例えば会社勤めの中で、強く惹かれるテーマを見つけ、自分でやるしかないと独立・起業を決断した。
または信頼する友人から、その友人の事業の一部をやってくれないかと持ち掛けられ、それに応える形で起業したとか。
何もきっかけがない中で、いろんな事業を比較検討して起業した、というケースは稀でしょう。

ですから事業を立ち上げた時点では、何を頑張ればよいか明確です。
頑張り屋にはもってこいの状況です。
例えれば、目の前に上るべき坂道があり、これを上ることに集中すればよい、という状況です。
持ち前の頑張りで何年かかけて坂道を上り切ると、道は平たんになります。
ここで頑張り屋の社長は困ってしまいます。
これまで坂道を上る負荷を、会社成長の実感としていました。
道が平たんになり、ふっと急に負荷がなくなり体が軽くなったのが、不安でしょうがないのです。

ここで「財務」の出番です。
坂道を上り切ったということは、当初の事業目的を果たし、会社のステージが一段上がったということ。
この時点で大切なことは、今の会社の状況を数字でしっかり分析・把握することです。
例えば、このまま3年間平坦な道を楽に進んだら会社はどうなるか。
十分に分析した結果、このままでも着実に利益を残していける、と出たならば、安心して巡航運転すれば良いのです。

良くないパターンは、頑張り屋の社長が、負荷が無くなった不安から、無理やり次の負荷を探そうとすることです。
やってきた事業のシェアを一気に伸ばすために多額の投資をしたり、やってきた事業と関係ない事業に進出してみたり。
ここから会社がおかしくなって行くのです。

巡航運転をするには意味と目的があります。
巡航運転をしながら、次の「きっかけ」と「必然」を探すのです。
最初に事業を起こした時と同じ、「きっかけ」と「必然」です。
落ち着いて周りを見ながらゆっくり進めば、必ず次の「きっかけ」が見つかります。
そうやって見つけた「きっかけ」は、自分で強引に導き出した成長戦略よりも、はるかに成功しやすいもののはずです。
次の「きっかけ」を見つけるまでは、社内の効率化や福利厚生の充実、資産の洗替など、しっかりメンテナンスをしておくことです。

財務は、「頑張り過ぎない」ためのものでもあるのです。

「がめつい」社長たち

「がめつい」社長たち

 

これまでにお付き合いがあった社長の中には「がめつい」人が何人かいます。
そういうがめつい社長たちはよく似ています
 
前日の売上が悪ければ、マネージャーに電話して長々と怒鳴り散らす
安月給のマネージャーに。
売上が良ければすこぶる機嫌がいい。
何か思いついたら、熟考することなく、すぐあっちこっちに電話する。
声が大きい。
傍若無人。
会社が儲かれば法外な役員報酬をとる。
家族を役員にして役員報酬をとる。
一緒に喫茶店に入っても、めったに財布を出さない。
業界の中でも煙たがられる存在。
仕入先に無理難題押し付ける。
あんなに頼み込んで入った商業施設なのに、売上が悪いとすぐ撤退しようとする。
 
尊敬できるところを挙げろと言われても困ってしまいます。
決して経営雑誌に特集されることはないでしょう。
もちろんカンブリア宮殿にも。
 
しかし私が知っている限り、そんな社長たちの会社はことごとく儲かっています
しかも長い年数連続で。
私が知っているがめつい社長たちの会社、アパレル、雑貨、鈑金、ビル清掃など業種によらず、よく儲かっています。
 
 
「がめつい社長」を変わり者として切り捨てることは簡単です。
しかし、そのがめつさと業績の関係を考察することなく切り捨てるのはもったいない気がします。
上に書き並べたことの中にも、学ぶべきところがいくつもあるのではないでしょうか。

よく考えてみると、私にはマネできないことばかりです。