「客を囲い込まない」という戦略

ゴルフ練習場

いつも利用しているゴルフ練習場の社長と話をする機会がありました。
40代のその社長の経営方針は、「お客を囲い込まないこと」だそう。

その練習場は私たちの会社から一番近いので、週に一、二回会社帰りに利用するのですが、何といっても料金が安い。
球貸機に500円入れると100球以上出てきます。
平日の夕方ならこれだけで十分。
間違って1000円札を投入しようものなら、夜遅くまで帰れなくなってしまいます。
設備的には、流行りの自動ティーアップ機やスイングチェックマシンなどはなく、お世辞にも美しいとは言えない施設ですが、いつ行ってもお客は多くいます。

私は率直に、こんなに安くして儲かるのか訊きました。
社長いわく、「これ以上取る必要がない」とのこと。
「大した設備も入れていないから、償却負担もほとんどない。
まとまった出費は、マットとボールを入れ替えるときくらいかな。」
なるほど、最新鋭の設備を導入して集客を図るのではなく、導入しないことで浮いたコストを料金に反映させて集客を図っているんですね。

でも社長が「自動ティーアップ機」を導入しないもっと大切な理由がありました。
それは冒頭に書いた、「お客を囲い込まない」ためです。
ティーアップ機を入れると、お客にカードを持たせることになる。
するとお客の財布の中にまた一枚カードが増える。
社長は、「お客を囲い込まない」=「お客の自由度を最優先する」と考えているのです。

その練習場では、お客が打席に行くときフロントを通りません。
お客は自由に練習場に入り、好きな打席を選び、球貸機に現金を入れて要るだけ球を買う。
練習したいだけして、終わったらそのままサッと帰る。
誰にも管理されることなく、誰とも話す必要もなく、すべて自分のペースで遊んで帰るのです。

考えてみれば、何年もこの練習場に通っているのですが、今回知人に紹介されるまでこの練習場の社長や支配人がどんな人なのか知りませんでした。
フロントを通らないから。

会員カードやポイント制が全盛な昨今、「囲い込まない戦略」がとても新鮮に感じました。

すべて東京が最先端、というわけではない

すべて東京が最先端、というわけではない

二十年前は疑いもなく、日本国内の流行やトレンドはすべて東京でつくられる、と思っていました。
これから地方で起きることを予測するには、東京を見ておけばよい、
東京で起きたことが地方に広がっていくんだからと。

しかし、「人口減少」が日本の最重要課題の一つになった頃から、その考えは変わりました。
「人口減少」に関して言えば、東京から最も遠くの町が最先端を行っているからです。
東京は最後尾です。

例えば、首相のお膝元、山口県長門市の人口は、平成30年10月現在で33,570人。
これは
5年前(平成25年)の36,235人から7.3%減、
10年前(平成20年)の39,209人から14.3%減
に相当します。
人口総数が少ないので変動率が大きくなりやすいとはいえ、7年で1割の人がいなくなる、という空恐ろしい状況です。
隣接する萩市も同様ですから、本州最西端のこの辺りは、「人口減少」に関しては最先端の町かも知れません。

毎月、山口、兵庫、東京に滞在します。
これらの地域は、「人口減少」に関しては、三者三様です。
前述の通り、「人口減少」がハッキリ顕在化している山口、
今でも一貫して増え続ける東京、
過去10年以上、550万人前後で増えも減りもしない兵庫。
そんな増えも減りもしない兵庫が未来を予測するとき、見ておかなければいけないのは「東京」ではなく「山口」かも知れません。

その観点からすると、われわれ地方の中小企業は、これから日本で進む「人口減少」問題を真っ先に体験し、そこでのビジネスを模索することになります。
そのビジネスは、「東京」から学ぶことは出来ません。
地方の中小企業が自ら考え、自ら取り組むしかないのです。
考えようによっては、チャレンジャブルでやりがいのある仕事です。

山口県長門市にある「元乃隅稲成神社」は、2015年CNNが選んだ「日本で最も美しい場所31選」に入りました。
地元の人が見向きもしなかったこの神社は今、国内外の観光客でいっぱいです。