脱「おしん」世代の、働き方改革

 

ときどき会社の近くの農家を訪問することがあります。
田んぼの真ん中にある築70年の古民家を借りて手直し、ベトナム実習生の寮にしているからです。
ときどきその寮をチェックに行くのですが、いつ行っても貸主の農家の老夫婦は畑で仕事をされています
80歳くらいのおばあちゃんと立ち話をすると、その黒光りした顔に刻まれた深いしわを見て、半世紀以上も毎日毎日田んぼや畑に出続けている暮らしを想像して、いつも少し胸が苦しくなります。

50代前半の私たちの世代は、「貧しさ」から抜け出すために働いたという経験はありません。
しかし戦前生まれの親からは、戦中戦後の「貧しさ」の話をたくさん聞いて育ったので、「おしん」の世界観、「清貧の尊さ」が、どこか頭や体に染みついています
おばあちゃんのしわを見て胸が苦しくなるのは、そのせいでしょう。

しかしその感覚はこれからの経営には不要です。
むしろ「障害」になりかねません。
例えば、今徐々に農業を志す若者が増えています。
農業に従事しようという女の子が、50年後、黒光りした顔と深いしわになっていては絶対ダメです。
テレビCMでは、朝から晩まで、きれいな女優さんがキレイな肌を保つための化粧品をPRしています。
どんな女性もいつまでも白く美しい肌をキープしたいでしょう。
「農業を志すなら、白い肌は諦めなさい。
黒光りした肌と深いしわが、農業の誇り」
などと考えてはいけないのです。

工場で働く男の子たちもそうです。
「旋盤工なら、指が1本無くなってはじめて一人前になるんだ」
などと考えてはいけないのです。

これからの若い世代は、「おしん」を見ても感動するどころか、「ナニコレ」でしょう。
それが当たりまえですし、それでいいのです。
農業に従事しても日焼けしない、旋盤工に従事しても指がなくならない、そういう労働環境をつくることこそが、これからしなくてはいけない「働き方改革」です。
それが出来れば、これまで人が集まらなかった職種に人が集まるようになるでしょう。

私たちの「労働観」もアップデートしなければいけません。

JOCエリートアカデミー、「選手ではなく、システムに投資する」

 

テレビ番組で、「JOCエリートアカデミー」のディレクターの方がお話をされていました。
アカデミーでの選手強化の手法は、
「選手に投資するのではなく、システムに投資する」
のだそうです。
JOCエリートアカデミーは、日本オリンピック委員会(JOC)が、将来のメダリスト輩出のために設けた中高生対象の養成所。
あの卓球の張本選手も在籍しています。

「選手ではなく、システムに投資する」
それは、有望選手を発掘して個別の強化を施す、という手法ではなく、
いろんな選手が利用できる育成システムを用意して、それを継続的に進化・高度化させる、という手法です。
そのシステムに乗っかった選手たちが、結果的に強化される、という考え方です。
これはおそらく、エリートアカデミーに限らず、JOCの方針でもあるでしょう。

「選手ではなく、システムに投資する」メリットは何か。
それは幅広くタレントを発掘できる、ということではないでしょうか。
そもそも、誰が将来金メダルを取るか、なんて誰にも分かりません
今世界一の選手でも、2年後ケガやスランプに見舞われているかも知れません。
ヘタに誰かを選ぶより、出来るだけ多くの選手が利用できる育成システムを用意して、それを絶えず進化させていく方が、堅い投資になるでしょう。
それが上手く機能すれば、注目されていなかった選手群からもトップアスリートが波状的に生まれ、代表レベルの選手層がぐっと厚くなります。
陸上男子100mの充実ぶりなどは、その成果かも知れません。

これは会社経営にも通じます。
「人ではなく、システムに投資する」
会社は、「人」次第であり、「人」の成長がキモであることは間違いありません。
しかし、特定の社員を集めて実施する「幹部候補者研修」は、必ずしも投資効果の高いものではありません。
それよりも日々の仕事の中に社員が成長するための仕掛けがちりばめられている方が、より多くの社員に成長のチャンスを与えられるでしょう。
その仕掛けが、「教育システム」として継続的に進化させられれば理想的です。
そうすれば、思わぬところから思わぬ人材がポツポツ出てくるものです。

霞が関や上場企業は、エリートをMBA留学させます。
「とりあえず、勉強して来い」と。
「人」に多額の投資するわけです。
しかし、お金が少ない、そんなエリートもいない中小企業は、
「とりあえず、勉強して来い」という「人」への投資は、やってはいけません。
そのお金を、「システム」に振り向ける方が賢明です。
「思わぬところから思わぬ人材がポツポツ出てくる」システムです。

IoT+サイバー攻撃=「壁に耳あり障子に目あり」

 

ウクライナが国レベルで集中的なサイバー攻撃を受けているとのこと。
変電所へのサイバー攻撃で、都市への電力供給が停止するなど、映画で見た危険が現実になってしまっているのです。
真偽は定かではありませんが、それらのサイバー攻撃は敵対する国の傘下のハッカー集団が仕掛けているとのこと。
そのレベルのハッカー集団がその気になれば、小国のシステムに入り込むことなど、さほど難しいことではないのでしょう。

ところで、先日の日経新聞に、「IoT 安全性に公的認証を」という記事がありました。
セキュリティレベルの高いIoT機器に公的認証を与え、その機器を使うことでサイバー攻撃を受けるリスクを下げよう、というものです。
しかしこの記事とウクライナの記事を並べた時に、今後間違いなく私たちの生活に浸透する「IoT」は、果たして安全に運用されるのか、非常に心配になってきます。

今後、家電メーカーや住宅設備メーカーは、次世代のメシの種として、IoT機器をバンバン投入してくるでしょう。
当然私たちの身の回りの機器のIoT比率は急増します。
テレビを買うときも、ほしくなくてもIoT機能がもれなくついてくるでしょう。

あらゆるモノがネットでつながる「IoT」
それは、あらゆるモノがサイバー攻撃を受ける危険性がある、ということ。
例えば、これから普及する「AIスピーカー」も、サイバー攻撃でそのまま「盗聴器」に。
人の表情を読み取る犬型「ロボット」の目も、サイバー攻撃で「監視カメラ」に。
IoT+サイバー攻撃=「壁に耳あり、障子に目あり」
となる恐れがあるのです。

このようなサイバー攻撃に対する最も有効な防止策は、「ネットにつなげない」ことでしょう。
家電メーカーや住設メーカーは、機器にIoT機能を付けるのであれば、同時に「つなげない」機能も充実させてほしいものです。
何事にもアクセルとブレーキが必要です。

「時間を買う」ことが、常に正しいわけではない

 

知人が経営している運送会社では、高速道路の利用を禁止しています。
単純に高速料金を節約するためです。
その会社は、20台ほどの中型トラックで、比較的近距離の輸送を請け負う中小企業です。

このような運送会社が多いせいか、高速道路があるルートでも一般道をトラックがバンバン走っています。
「事故や渋滞の原因になるから、商用のトラックは高速道路を走ってくれたらいいのに」、
と私たち一般ドライバーは思います。
「高速代をケチっても、一般道をゆっくり走ってちゃ、時間がもったいないじゃないか。
トラックの運転手不足なんだから、もっと高速を使って効率を上げればいいのに」
とも。

しかし、冒頭の運送会社の社長は言います。
「高速道路を使えば確かに早いけど、それで1、2時間早く帰ってきてもねー。
その時間で出来ることは何もないよ。」
なるほど。
高速道路を使って往復、2千円のコストをかけて1時間短縮したところで、その1時間が次の売上を生まないのなら、ただ経費が2千円増えてしまうだけです。

社長は続けます。
「高速を使うかどうか、都度決めたり、判断を運転手に任せたりすると、運転手が迷ってしまうから、『使わない』と決めた方がいいんだよ」
なるほど。
「高速は使わない」と決めてしまえば、ルートが決まり、所要時間が決まり、運転手が迷う余地はありません。
同時にコストも確定するので、仕事単位の利益も確定します。
その仕事単位の利益を1ヶ月積み上げて、会社が十分利益が出ているなら、それでOKというわけです。

ビジネスでは、「時間」「スピード」が何よりも大切、ということが喧伝されます。
「時間をカネで買う」ことは、常に正しいことのように。
しかしそれは、その結果浮いた時間で何らかの成果を上げれることが前提です。
コストをかければ、キャッシュが確実に出ていきます
しかしそれによって浮いた時間で、キャッシュを稼げるかは、極めて不確実です

中小企業では、不確実な利益を求めず、確実にコストを抑える方が、最終的に利益を残す可能性は高いでしょう。
一(いち)ドライバーから起業した運送会社の社長は、経験則でそれを知っているのです。

マツダは新型エンジンで、逆張り戦略を手に入れた

 

マツダが来年投入する新型エンジンは、どえらいエンジンです。
今流行りのハイブリッドやディーゼルではなく、もちろんEV(電気自動車)でもない、ガソリンエンジンです。
「HCCI燃焼」という究極の高効率燃焼理論を、世界で初めて実用化したのです。
この新型エンジンで、燃費は従来比30%アップするとのこと。
小型のデミオクラスで、燃費は24.6 → 32.0km/Lに伸びます。
ハイブリッドのアクアが37 km/L、フィットが33.6 km/Lですから、ガソリン車でありながらかなり近い数字を叩き出しているのです。

それにしても毎日のように新聞紙上に、自動車業界がEVに向かっている記事が載っている今、なぜ新型ガソリンエンジンなのか。
非常にタイミングの悪い開発のようにも見えます。
しかしこのマツダのHCCI実用化には、重要な意味があります。
それは究極のガソリンエンジンに辿り着いたという意義です。

今、欧州各国は、EVへの転換競争を始めています。
フランスでは2040年までに純粋なガソリンエンジン、ディーゼルエンジンの生産・販売を禁止するとの声明を出しています。
つまりEVやハイブリッドなど、モーターを積んだ車しか認可しないのです。
そういう国の方針に沿って、ボルボなど自動車メーカーもEVへの完全移行を計画しています。

このEVへの完全移行を目指す目的は、環境負荷の軽減と、排ガスによる健康被害の抑制。
確かにその目的に照らして車1台を比べれば、EVに分があります。
しかしそもそも、その電気がどう作られて、どう運ばれてくるかが決まらなければ、EVへの転換が環境負荷を軽減するかどうかは分かりません。
発電所でバンバン石炭や石油を燃やして、その電気でEVを走らせては、目的から外れてしまいます。
つまり、世界がEVへの転換に向かうのは間違いないのですが、100%EVになるのがベストかどうかは、まだ誰にも判断できないのです。

20年後のエネルギーのベストミックスの状況によっては、ガソリン車も一定割合で残る可能性もあります。
もし一定割合でガソリン車を残すなら、それはマツダが実用化したHCCIでしょう。
どの会社も実用化を目指していたHCCI。
それをいち早く手に入れたマツダは、EV化の逆張り戦略も手に入れたと言えるかも知れません。
大成功の可能性もアリです。