変容する「設備投資」、今年が重要な転換点かも

 

日経新聞によると、2017年度の国内の設備投資計画は、全産業合計で13.6%増、リーマンショック後で最高の伸びとのこと。

「設備投資」と聞いてイメージするのは、「増産」「事業拡張」「新分野進出」です。
しかし今の設備投資は違います。
セブンイレブンの改装、ヤマトの物流施設投資など、目的は「人不足」に対応するための設備投資です。
老朽化した工場を「スマート工場」に置き換えるのも、少人数で高効率な生産体制をつくるためでしょう。
人が採用しにくい都心部から、比較的採用しやすい地方に工場やオフィスを移転するのもそう。
どれも人不足に対応するための、「せざるを得ない」投資なのです。

人手不足の根幹にあるのは、「人口減少」や「少子高齢化」。
かつては、その「人口減少」によって経済全体も縮小する、と言われてきました。
働き手が減って、消費する人も減るのだから、経済は当たり前に縮小すると。
しかし最近は、「そうではない」という見方も出てきました。
「経済を成長させるのは人口ではない、技術革新だ」という見方です。

確かに、経済の「供給サイド」に関して言えば、ヘタに人間が作業するより、AIを備えたロボットの方がはるかに生産性の高い仕事をするでしょう。
そこまで一気に転換しないとしても、働き手が徐々に減る間に、技術革新でその穴埋めくらいはできるでしょう。
「需要サイド」はどうか。
人が減ると、食べるゴハンの量が減ります。
ディズニーランドの入園者数も減るかも知れません。
しかしロボットだって何も食べずに仕事をするわけではありません。
つまり中身は違うけど、新たな「需要」が生まれ、必ずしも縮小するとは言えないのです。

私たちの未来の豊かさは技術革新に支えられるのです。
決して人口が減ると、その分だけ残った人間に過重労働が課されるわけではありません。
逆に将来は、技術革新によって人間はほとんど働く必要がなく、それでいて収入が入ってくる、なんていう見立てまであります。
5年前までそんな話を聞いても、バカげた話として流していたでしょう。
しかしAI、IoT、自動運転、などが現実的になった今、そんな世界も想像できるようになりました。

人手不足 → 採用難 →、効率化投資
これが今の設備投資ですが、現段階では対処療法的な投資に見えます。
しかしこれは、人に代わっって機械やAIが付加価値を生み出す、という未来への転換点なのかも知れません。

アスリートファーストなスポーツジム

 

以前、私たちのグループ企業が所有する不動産に、スポーツジムの運営会社から賃借の申込みがありました。
プロ野球選手やJリーガーの多くが利用することで有名な、アスリートファーストなスポーツジムです。

不動産は関西の中心市街地にあるのですが、ジムの社長はその立地特性を生かした提案をしてくださいました。
目玉設備として、「野球のバッティングゲージ」を2つ作りたい、との提案です。
ピッチングマシンを2台、それも硬球用。
つまり硬球を打てる小さなバッティングセンターを組み込む、というプランです。

想定しているメインターゲットは、高校球児
関西には、プロを目指している高校球児がたくさんいます。
硬球を打てるバッティングセンターは町中には多くないので、少し遠いところからでも来るのではないか、とのことでした。

高校球児にとっての付加価値は、「硬球が打てる」だけではありません。
もっとモチベーションの上がる付加価値。
それはプロ野球選手に会えることです。
継続して練習に行けば、何度かに一度は、阪神やオリックスの選手に会えるのです。

ご存知の通り、プロ野球選手はアマチュアの選手を指導することはできません。
ジムの社長が想像している風景はこうです。
プロ野球選手が、ウェイトトレーニングのためにジムにくる。
その行き返りに、バッティングゲージのそばを通る。
そこで高校球児のバッティングを見て、「ナイスバッティング ! 」
プロに声をかけてもらえた高校球児。
それは高校球児にとって、プライスレスな経験です。

憧れのプロ選手の近くでトレーニングができる、という付加価値
トップアスリートと同じ環境でアスリートを目指せる、という付加価値
「アスリートファースト」のジムだからこそ発想できる、顧客の付加価値です。
最終的には契約に至らなかったのですが、社長のお話は商売のヒントに富んだお話でした。

あの商品は、オレがつくった

 

「あの商品は、オレがつくった」
「あの店は、オレがつくった」
「あの契約は、オレがとった」
あれはオレの手柄だ、というアピール。

ときどきそんな主張に出会います。
会社の中のいろんな人と話をしていると、同じ商品について何人もが
あれは自分がつくった、というケースもあります。

「いったい、誰がつくったんだー !」
と言いたいところですが、言わないでおきましょう。
一つの商品に対し、何人もが自分がつくったと主張する。
それはその商品がヒット商品だという証拠。
大ヒットであればあるほど手柄を主張する人が増えるのです。

実際、そのヒット商品の開発にはたくさんの人が関わっています。
開発の前段階で、顧客の嗜好を調査した人。
商品本体を企画した人。
その企画を承認した人。
デザインを担当した人。
製作を請け負った人。
それらの人たちが、「オレがつくった」と言っているのです。

たくさんの人が「オレがつくった」と自慢する大ヒット商品がある。
それは会社にとって素晴らしいことです。
会社の中に、「オレがつくった」がいっぱい溢れれば、会社は繁栄するでしょう。
「いったい、誰がつくったんだー !」 は必要ないのです。

なぜそんなに残業をさせたがる ?

 

先日、新国立競技場の地盤改良工事に携わっていた男性が自ら命を絶ち、遺族が労災の申請をしたとのニュースがありました。
大学を卒業して一年目、12月中旬から新国立の担当になり、3月初めに失踪するまでの間、月間200時間以上の残業をしていたとのこと。
このニュースを聞いて、ドキッとした人たちがいます。
運輸業、建設業の業界団体の人たちです。

政府が導入を目指している残業時間の上限規制。
企業側の経団連は100時間、従業員側の連合は100時間未満を主張。
結局安倍首相の裁定で、連合側の100時間未満に決定しました。
この規制は2019年度から適用される予定です。
しかし運輸・建設の業界団体は、適用の猶予を申請しています。
東京オリンピック後から段階的に適用するように。
この上限規制が施行される前、現時点でも運輸と建設だけ労働時間については特別扱いをされています。
この二業種は残業規制になじまないものと見られてきたのです。

冒頭の悲しい事件を、運輸・建設の業界団体の人たちはどう捉えるのでしょうか。
「考え直さなければいけない」と思うのか、それとも「余計なことをしてくれた」と思うのか。

それにしても、産業界はなぜそんなに残業をさせたがるのでしょうか。
従業員側の連合でさえ、100時間を基準に議論してしまっているのですから、日本の産業界の残業に対する感覚は、「働き方改革」に程遠いです。

この100時間は繁忙期の残業時間を規制するもの。
しかしそもそもそれだけの残業が必要な「繁忙期」があること自体が問題ではないでしょうか。
「働き方改革」は「仕事改革」なしには成し得ません。

もう一つ気になるのは、経団連が現場の働き手のことをどれだけ理解しているのかという点です。
ハッキリ言って、現場の従業員は100時間も残業させられたら、いい仕事はしません
今日も残業だと思うと、朝からそれに合わせた働き方になります。
人間だもの。
逆に、それくらいでなければ不幸な事件はもっと増えるでしょう。

仕事は定時か若干の残業で終わり、早く家に帰ってゆったりと自分の時間を過ごす。
そして早めに寝て、早く起きる。
早めの電車で出勤して、今日の仕事の段取りを早く済ませる。
こんな循環が仕事の質を高め、社員を輝かせるのではないでしょうか。

遅くまで残業して、ヘロヘロになって遅い時間に家に帰る。
朝はギリギリに起きて満員電車でギリギリに出社。
勤務時間が始まってから、ようやく今日の仕事の段取りを始める。
いいことなんか絶対にありません。

スッキリしない仕事、それも「正解」

スッキリしない仕事、それも「正解」

 

会社も個人も一つ一つの仕事をスッキリ片づけて、ストレスなく仕事を進めていきたいものです。
しかしそうもいかないのが現実です。

私たちの取引先の中に、グルーバル展開している大手メーカーがあります。
数年前から部品加工を委託され、徐々に納品量も増えてきました。
下請け仕事ではありますが、単価も悪くありません。
ただ、仕事量の変動が大きく、月によって売上も大きく上下します。

この仕事で利益を出すために、私たちは仕事量を平準化します。
仕事量の少ない月には、来月の仕事を先食いして製造するのです。
半年先までの仕事内容は分かっているので、それを前倒しにして、製造現場をフル稼働させるわけです。

しかし先方はあくまで「ジャストインタイム」
「必要な時に必要なだけ」の在庫しか抱えません。
私たちが前倒しで作った部品は、納品させてもらえないのです。

先方は「ジャストインタイム」、こちらは「仕事の平準化」。
相容れないテーマです。
そこで毎月のように先方と交渉することになります
「今月の売上は少ないから、完成している来月分も一部納品させてちょうだい」
「来月は工数が余る(手が余る)から、別の仕事もちょうだい」

こちらの担当者は毎月毎月のことで、先方と交渉するのに辟易としています。
担当者は社内で、
「先方の言う通りに納品しましょう。
毎月毎月交渉したくない。
毎月ゴタゴタすることなく、スッキリ仕事をすすめましょう
と主張します。
しかしそれは認めません。
相容れない利害関係を抱えて取引を続けていくためには、毎月「押し問答」が必要なのです。
「押し問答」がなくなったら、向こうの「押し」がさらに強くなります。
スッキリする必要はありません。
時と場合によっては、スッキリしない仕事も「正解」なのです。