新幹線の「台車亀裂トラブル」から学ぶべきこと

新幹線

新幹線のぞみ号の台車に亀裂が入り、名古屋駅で運行停止するというトラブルがありました。
国の運輸安全委員会は、深刻な事故につながりかねない「重大インシデント」に認定しました。
台車に亀裂が入った大事故と言えば、1998年ドイツで起きた「エシェデ鉄道事故」
ドイツの高速鉄道列車「ICE」が、時速200キロで走行中に脱線、道路橋などに激突して100名以上が亡くなりました。
この時の原因が、台車の亀裂でした。
運輸安全委員会も、当然この「エシェデ鉄道事故」を想起しているでしょう。

ところでこの「台車」は、鉄道車両の中でキモのキモ、最重要基幹部品です。
新幹線車両をつくる重電メーカーは、多くの下請け工場にさまざまな部品を作らせています。
しかし、この部分に関しては外で作らせることはありません。
台車の周囲の「台車枠」でさえ、内部製造に限定しています。
それくらい「台車」の重要性・安全性は他の部品とは区別して取り扱われているのです。
それだけに今回の「台車の亀裂」は、関係者にとって非常にショッキングなトラブルでしょう。

詳細な原因究明は今後の調査を待つとして、今時点でもこのトラブルから学び、記憶しておくべきことがあります。
それは、「大きなトラブルの前には、必ず予兆がある」、ということです。
突然発生したように見えるトラブルも、実は何らかの「事前予告」があるのです。
これは非常に重要で、非常にありがたい「事実」です。
現に今回も、予兆として「異音」「異臭」「変色」「油漏れ」などが見つかり、それによって列車を運行停止にすることができました。
大惨事が起きる前に。

私たちの会社でも昨年、一部の天井クレーンが二週間止まる、というトラブルがありました。
一工程だけの不具合ですが、すべての製品がその工程を通るので、全体の製造計画に大打撃を受けました。
トラブル発生後、担当者からのヒアリングで、発生前一週間くらい「異音」がしていた、という事実が判明しました。
モノ言わぬ機械や設備も、最後は文字通り音(ね)を上げて、トラブルの「予兆」を発信してくれるのです。
問題は、こちらがそれを「予兆」として受け取れるかどうか。
受け取れればトラブル回避、受け取れなければトラブル発生です。

中小企業には資金的余裕はありません。
すべての機械・設備に予備を置いておくことは出来ません。
また耐用年数を過ぎたという理由で、正常作動している設備を更新するのも非現実的でしょう。
だからこそ、この「予兆」を見逃さないことが、一番安上がりで一番確かなトラブル回避策なのです。

ぶつからない新幹線

新幹線

 

先日新聞で、「川崎重工と三菱商事がバングラデシュの鉄道車両・関連設備を受注する見込み」という記事を見ました。
車両数は100両、受注額は数百億とのこと。
これは国際協力機構(JICA)の円借款1,735億で、首都ダッカのインフラを整備する一環です。

こういう鉄道インフラの輸出は、安倍内閣の成長戦略の一つに位置付けられています。
これまでの最大受注は2012年〜13年に日立が受注した、イギリスの高速鉄道(IEP)
866両、8,800億円のビックプロジェクトです。
この車両製造が今、山口県下松市の日立笠戸事業所でフル操業状態で行われています。

以前、その笠戸事業所の方にIEPについてお話を伺ったことがあります。
笠戸事業所では通常、JR新幹線車両N700をメインに作っています。
新幹線もIEPもアルミで作られるのは同じなのですが、安全に対する考え方に大きな違いがあるとのこと。
それは、新幹線は「ぶつからないこと」を前提に車両を作り、IEPは「ぶつかること」を前提に作るのだそうです。

新幹線は、ソフト面では運行管理システムを高度化し、ハード面では全線を高架にして、絶対にぶつからない仕組みを作っています
ですから車両は「ぶつからないこと」を前提に、アルミの板厚を薄くして軽量化し、省エネを目指しています。

一方IEPは、新幹線ほどの高度化された運行管理システムを持っていませんし、高架でなく地上を走ります。
ですから車両は、ある程度「ぶつかること」を前提に、アルミの板厚を新幹線の約2倍にし、さらに先頭車両には大きな「衝突衝撃吸収装置」がついています。
万が一、何かと衝突しても、運転士の命を守ることを目指しているのです。

つまり、➀運行システムで安全を確保するのか、➁車両強度で安全を確保するのか、の違いなんですね。

ところで何年か前に、中国の高速鉄道の衝突がありました。
高架の上で車両同士がぶつかる衝撃的な映像でした。
あの鉄道車両は、日本の新幹線車両がベースになっているとのこと。
そうであれば、高度化された運行管理システムが絶対に必要なのですが・・・。