最低賃金と初任給の関係

最低賃金と初任給の関係

「最低賃金」はパートさんなどの時給を決めるときに参考にするもので、正社員の給与とは関係ないものと思っていました。
社員の給与水準は全然上なんだからと。

しかし最近、状況が変わってきました。
今年の最低賃金の引き上げで、恥ずかしながら、私たちの会社の高卒新入社員の給与が引っかかってしまったのです。

今年10月に改定された県の最低賃金は829円
製造業の多くは、この「最低賃金」ではなく、業種ごとに決められた「特定最低賃金(特定最賃)」が適用されます。
私たちの業種は936円、12月15日、即日適用です。
ちなみにこの特定最賃、5年前は822円でしたから、5年で13.8%、114円上昇したことになります。

私たちの会社の高卒初任給は158,000円。
地方では他社と比べて悪くないのですが、これが特定最賃936円にわずかに届いていません。
給与水準は他社に遜色ないのに、特定最賃に抵触するのはなぜか。
「所定労働時間」が長いからです。
完全週休二日制になっていない中小製造業は、時給計算の分母である「所定労働時間」が大きいのです。
分母が大きいから時給は低くなってしまいます。
特定最賃が年々引き上げられ、中小製造業の高卒初任給が特定最賃に引っかかりやすい状況になっているのです。

それに関連するデータがあります。
厚労省の賃金構造基本統計調査の「平成30年企業規模別にみた初任給」。
それによると、高卒男子の初任給(全国平均)は、「大企業」167.0千円、「小企業」168.9千円。
このデータを初めて見たとき、「小企業」は知名度がない分、初任給を上げて人を集めようとしているのだと思いました。
しかし自社の初任給を修正する作業を通じて、この「大企業」と「小企業」の初任給の逆転は、「所定労働時間」の差によるものと思えてきました。

最低賃金引き上げは、「給与」だけの問題ではなく、「労働時間」の問題でもあるのです。

「引きこもり」と最低賃金

最近ニュースで頻繁に、「引きこもり」という言葉を耳にします。
「引きこもり」の男性が、通学途中の小学生を襲った。
「引きこもり」の息子に繰り返し家庭内暴力を受けた親が、息子を殺害した。
また、「引きこもり」そのものが、「8050問題」と称する大きな社会問題として採り上げられたり。

その昔、「引きこもり」は「不登校」とほぼ同義語でした。
しかし今や、「引きこもり」は中高年がメインゾーンになっているのだとか。
10代の子たちの「引きこもり」は学校に行かないことでした。
とすると、中高年の「引きこもり」は、仕事に就かないこと、会社に行かないこと、になります。
逆に言えば、「引きこもり」から立ち直るというのは、仕事に就く、会社に行く、ということでしょう。

そう考えると、この大きな社会問題を小さくしていくためには、日本中の会社の協力が不可欠です。
「引きこもり」の人たちに幅広く働く機会を用意する、幅広い働き方を許容するという協力です。
通勤でも在宅でも可。
1ヶ月のうち20日出勤でも5日出勤でも可。
1日あたり8時間労働でも3時間労働でも可。
専門的な仕事もあれば、単純作業の仕事もあり。

ところで、そういう雇用にも会社は最低賃金を支払わなければならないのでしょうか。
最低賃金を巡る今の趨勢は、全国一斉に引上げ、全国一律1000円以上にする、といった感じです。
この最低賃金の引上げに関するニュースを見るたびに、モヤモヤした気持ちになります。

何とか「引きこもり」から脱して仕事に就きたい、切実にそう思う本人やその家族にとって、最低賃金なんてどうでもいいでしょう。
例えば、今の自分でも出来そうな時給500円の仕事を見つけて、何年かぶりにドキドキしながら仕事に向かう40代の息子
その70代の両親は、出勤する息子を涙ながらに見送るでしょう。
その涙は、時給が安いから泣いているのではありません。

「引きこもり」を引き合いに出して、最低賃金の引き上げにケチをつけているわけではありません。
「引きこもり」に限らず、主婦、高齢者、障碍者など今働いていない人たちを社会に引っ張り出すために必要なのは、最低賃金の引き上げではなく、幅広い雇用形態だと思うのです。
賃金を上げることは働く人にとって間違いなく良いことです。
しかし最低賃金を上げることは、それによってハードルが上がり、雇用の機会・形態が減るなら、良いことではありません。