10年後土地は半額になる、と考える

将来土地は半額になるかもしれない、と考える

以前、宝飾品を扱う会社の社長から相談を受けたことがあります。
「自分が引退するまでに、会社の借入を全部返すことはできそうもない。
どうしたらええんでしょう」
会社の年商は10億足らず、借入は合計3億。
社長は現在65歳。
75歳で引退するとして、残り10年で3億をゼロにするのは到底無理、とのこと。

この社長もそうですが、多くの中小企業の社長は未だに自分の会社の借入についてガッツリ連帯保証しています。
そのため、借入が相当残った状況では引退すらできないのではないか、そんな心配をしているようです。

その会社の決算書を見ると、固定資産の部に「差入保証金」90百万がありました。
差入先は、ルミネやアトレ、イオンなど優良な先ばかり。
全国の優良なショッピングモールに出店している同社は、結構な額の保証金を差し入れているのです。
「社長、この保証金90百万はいつか還ってくるお金、返済に充てられるお金だから、3億から引きましょう」
結果、実質的な借入残は210百万になりました。

また、決算書の固定資産の部には「土地」150百万がありました。
本社ビルの敷地です。
土地は処分したらお金になって還ってくるのだから、これも210百万から引いて考えることもできます。
しかし、土地は相場で値上がり、値下がりします。
処分したときにいくらのお金になって還ってくるか分かりません。
どう考えるか。
こういう場合は、単純に「10年後半額」として計算します。
土地の値下がりリスクを考えるとき、「10年後半額」はリスクを十分反映しているでしょう。
30年後ならもっと値下がりするかもしれませんが。
「社長、10年後土地を処分したら、少なくとも簿価150百万の半分75百万はお金で還ってくるでしょうから、それも返済に充てられるので、210百万から引きましょう」
結果、実質的な借入残は135百万になりました。

つまり、この社長は向こう10年間で135百万をしっかり返していけば良いのです。
300百万返す必要はありません。
可能であれば現在の借入300百万を1本にまとめて、10年後社長が75歳のときに残高が165百万になるよう長期借入を組み替えるとよいでしょう。
その間は新たな借入はせず、しっかり返済を進める。

このように、10年後の土地の簿価が半額になるとして財務チェックすることは有益です。
多くの会社で、「土地」は貸借対照表の資産で大きな割合を占めています。
その「土地簿価」を半額に置き換えると、自己資本比率はどうなるか。
借入額から「土地簿価の半額」を引いた実質借入残、それを10年で返済することができるか。
全ての会社で使えるセルフチェック法です。

頑張り過ぎないための「財務」

頑張り過ぎないための「財務」

 

中小企業の社長は、ほぼ全員が頑張り屋です。
特に自分で事業を立ち上げた創業社長は間違いなく頑張り屋です。
社長が頑張り屋だから会社を成長させることが出来たのでしょう。
しかし、会社がおかしくなるのも、社長の頑張りが原因であることが多いです。

事業を起こした人の大半は、何かの「きっかけ」があり、その事業に取り組むことが「必然」と考えたのではないでしょうか。
例えば会社勤めの中で、強く惹かれるテーマを見つけ、自分でやるしかないと独立・起業を決断した。
または信頼する友人から、その友人の事業の一部をやってくれないかと持ち掛けられ、それに応える形で起業したとか。
何もきっかけがない中で、いろんな事業を比較検討して起業した、というケースは稀でしょう。

ですから事業を立ち上げた時点では、何を頑張ればよいか明確です。
頑張り屋にはもってこいの状況です。
例えれば、目の前に上るべき坂道があり、これを上ることに集中すればよい、という状況です。
持ち前の頑張りで何年かかけて坂道を上り切ると、道は平たんになります。
ここで頑張り屋の社長は困ってしまいます。
これまで坂道を上る負荷を、会社成長の実感としていました。
道が平たんになり、ふっと急に負荷がなくなり体が軽くなったのが、不安でしょうがないのです。

ここで「財務」の出番です。
坂道を上り切ったということは、当初の事業目的を果たし、会社のステージが一段上がったということ。
この時点で大切なことは、今の会社の状況を数字でしっかり分析・把握することです。
例えば、このまま3年間平坦な道を楽に進んだら会社はどうなるか。
十分に分析した結果、このままでも着実に利益を残していける、と出たならば、安心して巡航運転すれば良いのです。

良くないパターンは、頑張り屋の社長が、負荷が無くなった不安から、無理やり次の負荷を探そうとすることです。
やってきた事業のシェアを一気に伸ばすために多額の投資をしたり、やってきた事業と関係ない事業に進出してみたり。
ここから会社がおかしくなって行くのです。

巡航運転をするには意味と目的があります。
巡航運転をしながら、次の「きっかけ」と「必然」を探すのです。
最初に事業を起こした時と同じ、「きっかけ」と「必然」です。
落ち着いて周りを見ながらゆっくり進めば、必ず次の「きっかけ」が見つかります。
そうやって見つけた「きっかけ」は、自分で強引に導き出した成長戦略よりも、はるかに成功しやすいもののはずです。
次の「きっかけ」を見つけるまでは、社内の効率化や福利厚生の充実、資産の洗替など、しっかりメンテナンスをしておくことです。

財務は、「頑張り過ぎない」ためのものでもあるのです。

現場スタッフの「為になる財務勉強会」

実現可能性の高い「中期経営計画」
中小企業の社員向けに、その会社の決算書を使って財務勉強会を開くことがあります。
役員や幹部社員ではなく、現場を実際に動かしているマネージャーや一般社員が対象です。
 
社員に決算書を見せることは経営側からするといろいろ懸念されることもあり躊躇しがちです。

であれば無理にすべてをオープンにする必要はありません
差し障りのないところだけ使えばOKです。

 
一般的に貸借対照表は損益計算書に比べてその仕組みが理解しにくいので、勉強会も損益計算書に比重を置きがちです。
しかし私は逆に貸借対照表に78割の時間を割きます
かといって流動比率や固定比率など、現場を切り盛りする社員に必要のないことはまったく触れません。
 
時間をかけるのは、固定資産の科目を一つずつ確認することです。
土地は全部でいくら、その内訳を付属明細で確認します。
建物や構築物、什器備品は減価償却資産台帳で中身を確認します。
これをやると、社員たちは自分たちがいる店や工場、使っている備品が一つずつ帳簿で価格管理されていることを知り、その価格に興味を持ちます
例えば、
本社の敷地って2,500㎡もあるのかー、とか。
あのフォークリフトって18年前に買ったとき350万だったんですね、とか。
店舗内装の耐用年数ってすごく長いんですね、とか。
 
ここで期待したいことは、
①自分たちが商売するため、モノづくりをするために使っている一つ一つの物がすべて購入価格-減価償却=現在価格で管理されていることを知ること
無くしたり壊したりすると損失が発生し、代わりに新しいものを買うとまた高い金額から償却費用が発生すること
 
現場の社員たちは、自分たちの周りにある店や工場や什器やフォークリフトや溶接機に毎日コストが発生していることが実感として分かっていないんです。
それを数字で確認することで、周囲の物の見え方が変わってきます
是非お試しください !

目をつむって25メートルプールを泳ぐ、ような経営

目をつむって25メートルプールを泳ぐ、ような経営
小学生の頃プールで、目をギュッとつむったまま泳いだことがあります。
目を開けるのがイヤで。
25メートル先のゴールを目指して必死に手足をバタバタ、何とかゴール。
と思いきや目を開けてみると、着いたのはプールの横側(長い方)でした。
何度やっても結果は同じ。
コースレーン(浮いてるやつ)のないプールで目をつむったまま、まっすぐ泳ぐのは、思いのほか難しいことなんですね。
 
私は「思い」と「やる気」と「勘」を頼りに必死に頑張る経営者を見ると、いつもこの25メートルプールのことを思い出します。
それでもプールはどこかにたどり着くから良いのですが、ビジネスでは間違っても、たどり着くプールサイドすらありません。
さらに不幸なことに、「思い」と「やる気」と「勘」が強ければ強いほど、方向を失ったときに目標から大きく離れてしまいます。
頑張る社長の倒産劇はこのパターンが多いです。
 
会社経営で、「目をつむる」は数字を見ないこと
頑張る社長は、少しペースを落として時々立ち止まる必要があります。
立ち止まって、現在の立ち位置や目標の方向、前回立ち止まったところからの距離などすべてを数字で把握しなくてはいけません。
 
そして経営者の一番大切な仕事は社員が安心して思いっきり泳げるように、コースレーンを張ってあげることではないでしょうか。