昨年対比(昨対)100%とは。

昨対トレンド

売上の目標管理に、「昨年対比(昨対)」を使う会社は多いでしょう。
先月の売上は昨対103.5%だったとか、96.3%だったとか。
とりまく環境がどうであれ、昨対100%をクリアすればホッとします。
とりあえず、「去年と同じ売上」はとれたと。

しかし財務担当者であれば、昨対100%を単純に「去年と同じ売上」で済ませてはいけません。
全社売上が昨対100%であっても、部門別、製品別には120%だったり85%だったり、上下バラつきがあります。
つまり昨対100%は、120%や85%の数字を集めてみたら奇跡的に均衡して100%になったということ。
中身を見れば、今年の売上は、決して「去年と同じ売上」ではないのです。

これをある町の人口に例えるとこうです。
例えば、その町の今年の人口が3万人で、去年と同じ数字だとします。
しかしこの町では一年間に、赤ちゃんが生まれ、お年寄りが亡くなり、若者が都会の大学に出ていき、ベトナムから町内の工場に技能実習生が来ています。
その結果、奇跡的に3万人という数字で均衡しているのです。
今年の3万人は、「去年と同じ3万人」ではありません。
中身は大きく変わっています。
この中身を見ない限り、この町の将来の人口を予測することは出来ないでしょう。

このように、一見均衡して見える数字も、中身を見ると増えたり減ったり変動して、その総計が均衡しているに過ぎません。
この数字の見方は財務担当者にとって大切です。
会社を成長させるためには、
伸びている部門・製品に投資をする、
縮小している部門・製品に対策を打つ、
そのためには、部門別・製品別の変動をしっかり分析する必要があるからです。
そのとき、全社売上の「昨対100%」というデータはほとんど役に立ちません。

財務担当者は他の人と同じように「昨対100%」にホッとしていてはいけないのです。

中小企業の「実践的」財務分析 ②

中小企業の「実践的」財務分析

 

財務分析は、会社の「健康診断」です。

私たちが毎年受診する健康診断では、受診後に「結果表」が送られてきます。
その結果表には、検査項目ごとに自分の数値と、判定結果が記載されています。
白血球数 54.4      判定A (基準値32〜86)
中性脂肪 230  判定E (基準値30〜149)
γ-GDP         22       判定A (基準値0〜50)
などなど。
私もそうですが、結果表が届くと、このABCDE判定に一喜一憂します。
昔、夏休み前に通知表が配られ、そっと開いたときと同じように。

しかし、この判定は必ずしも正しいものではありません。
正しいのは「中性脂肪230」という数値であって、それが本当に「E」と判定されるほど悪い状態なのかどうかは分かりません。
人それぞれ個人差と個性があります。
基準値・平均値から離れていても、その人にとっては必ずしも異常値ではないかも知れません。
尿酸値がずっと9.0以上あっても、まったく痛風を発症しない人がいます。
逆に基準値内でも、発症する人もいます。

ですから、「判定」は参考程度にしておいて、注視しなければいけないのは、数値がどう変化しているかです。
それぞれの数値がいい方向に動いているのか、良くない方向に動いているのか。
「中性脂肪」は去年179だったから、悪い方に行ってるな。
最近、食生活が荒れているからかな。
酒を減らして、もっと野菜とらなきゃ。

大切なのは数値の変化をウォッチすること。
そしてその変化の原因を見つけ改善のアクションを起こすことです。
中小企業の「財務分析」もまったく同じなのです。

中小企業の「実践的」財務分析 ①

中小企業の「実践的」財務分析

 

「財務分析」と聞くと、貸借対照表や損益計算書の数字から、「自己資本比率」や「流動比率」を算出することをイメージします。
しかし、それは中小企業にとっては、「学問的」な財務分析です。
中小企業では、「学問的」財務分析の前に、「実践的」財務分析をしなくてはいけません。

中小企業の「実践的」財務分析は、貸借対照表や損益計算書を、時系列に並べることから始めます。
並べた数字をじっと眺め、科目ごとに増減をチェックします。
どの科目が増えて、どの科目が減っているか。
数字の並びを穴が開くくらい見るのです。
そうやって、数字の変化から会社の状態を読み解きます。

例えば、損益計算書を5年分並べる。
エクセル上に並べた数字を眺めて、増減している科目を探す。
「売上」は毎年着実に上がってる、4年連続増収だ。
「外注費」は3年前まで増加傾向だったのに、それ以降は減ってきている。
「広告宣伝費」は2年前から急増している。

増減している科目を見つけたら、その変化はなぜ起きたのかを考えます
さらにじっと数字を眺めながら考えるのです。
「売上」が増えたのはネット販売が増えた分だな、店の売上はそんなに増えていないから。
「外注費」は、売上が増えればそれにつれて増えるものだけど、3年前から内製化を進めたからこの動きになっているんだな。
「広告宣伝費」が急増したのは、間違いなくネット販売の「クリック広告」だ。
という感じです。

この「数字の変化」と「会社でやったこと・起きたこと」を一つずつ結びつける作業こそが、「実践的」財務分析です。
それを進めると、逆に「何をすれば、数字が変化するか」が明瞭になってきます。
何に取り組めば、数字が良くなるのか。
何をやめれば、数字が良くなるのか。
この財務分析は「会社のアクション」に直結しています。
だから「実践的」なのです。