先進的な機能を、先進的すぎないスタイリングで提供する

先進的な機能を、先進的すぎないスタイリングで提供する

先月の英国ヘンリー王子の結婚式で、王子自らブルーのオープンカーを運転して、パーティー会場に移動されていました。
そのオープンカーは、「世界で最も美しい車」と評されたジャガーEタイプ。
クラシカルで美しいフォルムですが、その中身は完全にEV(電気自動車)化されているとのこと。
イギリスの伝統美と、先進のEVの組み合わせが、非常に新鮮で魅力的に映りました。

EVと言えば、米国テスラ。
創業からわずか15年で、EVの寵児となったテスラは、「革新的企業」の代表でもあります。
以前、テスラのデザイン戦略に関する記事を雑誌で読んだことがあります。
「電気自動車」という先進的製品だからこそ、あえて先進的すぎないスタイリングにするとのこと。
つまり、顧客がそれまでになじみのないEV車を買うかどうか検討するとき、スタイリングまでなじみのないものになってしまうと、抵抗感が増してしまう、という考え方です。
例えば、テスラ・ロードスターのシャシーには、既存の自動車の中からスタイリッシュなデザインの「ロータス・エリーゼ」のシャシーを採用しました。
その後自社開発した「モデルS」まで、スタイリッシュではありますが、先進的・未来的な奇抜なデザインにはなっていません。

先進的な機能を、先進的すぎないスタイリングで提供する。
このマーケティングの考え方は参考になります。
特に私たち日本人には。
私たち日本人は、「先進的・未来的な自動車は、先進的・未来的なスタイリングであるもの」と、無意識に生真面目に考えてしまいます。
これは案外マーケティングとしては損をしているのかも知れません。
例えばお客が車を買おうとするとき、気に入った車種のラインナップの中に、ガソリン車とEVが用意されていた方が、EV購入の決断をしやすくなるのかも知れません。
ちょうど、ガソリン車とディーゼル車をチョイスするように。

車に限らず、先進的な製品・サービスを売る時、このマーケティングの考え方は参考になります。

「燃料電池車」か、「電気自動車」か。

「燃料電池車」か、「電気自動車」か。

 

2年ほど前、トヨタの「MIRAI (ミライ)」に試乗したことがあります。
水素を燃料とする「燃料電池車」ですね。
静かに走り出して、スーッと気持ちよく加速するのを実感して、文字通り未来はこんな車が主流になるんだなと思いました。

ただ恥ずかしながら、その時まで勘違いしていたのですが、燃料電池車は水素を燃やして走るものと思っていました。
そうではなく、水素を電気に変えて、その電気で走るんですね。
私が試乗で感じたあの乗り心地は「電気自動車」の乗り心地だったのです。

あれから2年、ここに来て自動車業界は一段と「電気」への移行方針を明確にしています。
先日ボルボは、2019年以降の新モデルはすべて電気自動車かハイブリッドにする、と宣言しました。
また、初めから電気自動車でスタートした米テスラは、「オーストラリアで大型蓄電システムを受注」したと発表しました。
こういうニュースを見ていると、「電気」「太陽光」「再生可能エネルギー」「原子力」「蓄電」「スマートグリッド」といった未来のエネルギーの話題の中に、「自動車業界」も飲み込まれようとしているのを感じます。

そこで少し気になるのは、冒頭の「燃料電池車」です。
CO2を出さない「夢のエコカー」であるはずの燃料電池車の記事を、新聞であまり見かけなくなりました。
トヨタが世界をリードしていることは間違いないのですが、後追いしている企業の話題がないのです。
エネルギーの変換効率や蓄電技術の進歩で、「燃料電池車」の優位性を危ぶむ声も出ています。

「燃料電池車」か「電気自動車」か「プラグインハイブリッド」か。
20年後に残っているのはこの中のどれかでしょう。
これを決めるのは「自動車業界」ではなく、エネルギーを取り巻く技術革新なのだと思います。
近いうちに自動車メーカーは、エネルギーの動向を踏まえて「どの道を選ぶか」、難しい判断を迫られることになるのでしょう。