「部門別損益計算」では、無理に間接費を割り振らない

部門別もしくは製品別の損益計算書を作るとき悩ましいのは、「間接費」をどう取り扱うか、です。

会社の費用は、「直接費」と「間接費」に分けられます。
「直接費」は、明確に部門分けできる費用です。
例えば原材料費やその部門に所属する社員の人件費など。
一方、「間接費」は、複数の部門もしくは全部門にまたがっていて、明確に部門分けが出来ない費用です。
例えば本社・本部にかかる費用や、複数の部門が同居する工場の減価償却費など。
結局、部門別損益計算を難しくするのはこの「間接費」であり、その取扱いを間違えると間違った部門別損益を社内に発信してしまう危険性があります。

間接費を各部門に割り振るとき、安易に「売上案分方式」を使うのも危険です。
「売上案分方式」は、各部門の売上の大きさに応じて、間接費用を案分負担しようという方式です。
例えば、全社売上の60%を売り上げている部門には、間接費の60%を割り振ろうというものです。

この「売上案分方式」がうまく行かない例を紹介します。
ある会社で、部門A・部門B・部門Cがあり、売上・直接費・直接粗利が【表1】の状況だとします。
また、この会社の「間接費」を2.2億とします。

【表1】

売上 直接費 直接粗利 直接粗利率
全社 10億 7.0億 3.0億  
部門A 6億 4.2億 1.8億 30%
部門B 3億 2.4億 0.6億 20%
部門C 1億 0.4億 0.6億 60%

※直接粗利 = 売上 - 直接費用
※直接粗利率 = 直接粗利 ÷ 売上

ここに「間接費用2.2億」を売上案分方式で割り振ります。
【表2】 売上案分方式

直接粗利 売上割合 間接費 営業利益
全社 3.0億   2.2億 0.8億
部門A 1.8億 60% 1.32億 0.48億
部門B 0.6億 30% 0.66億 -0.06億
部門C 0.6億 10% 0.22億 0.38億

※営業利益 = 直接粗利 - 間接費

結果、「直接粗利」段階では各部門相応に利益が出ていたのですが、「営業利益」段階では部門間に大きな優劣が出ています。
この結果をそのまま社内で公表したらどうなるか。
➀部門Aの社員たちは、売上の大きい自部門が会社を牽引しているという自負があります。
それが、売上が1/6の部門Cと大差ない営業利益になっているのを見て、モチベーションはダダ下がりになるでしょう。
➁部門Bの社員たちは、自部門が営業赤字になっているのを見て、先行きに不安を抱くでしょう。
➂部門Cの社員たちは、実感のない自部門の営業利益に戸惑うでしょう。
➃軽率な役員は、「部門Bは廃止すべき」と考えるかも知れません。

これは非常に残念な話です。
この会社は売上10億、営業利益0.8億、中小企業としては優良な会社です。
会社をより良くするために作った「部門別損益計算書」が、社内を混乱させてしまうのです。
安易に割り振った「間接費」のせいで。

部門別損益計算をするとき、無理に間接費を割り振る必要はないと考えます。
無理に割り振って部門の「営業利益」まで出しても、割り振り方が恣意的なために、恣意的な営業利益になってしまいます。
ですから、【表3】のように、間接費用を部門に割り振らず、「全社の間接費用」として置いておきます。

【表3】

売上 直接費 直接粗利 間接費 営業利益
全社 10億 7.0億 3.0億 2.2億  0.8億
部門A 6億 4.2億 1.8億     
部門B 3億 2.4億 0.6億     
部門C 1億 0.4億 0.6億     

 

会社が利益を増やすためには、
➀各部門が「直接粗利」を増やす
➁本部が主導して、全社の「間接費」を減らす
しかありません。
それらの指標になる数字は、間接費を割り振らない【表3】でも確認できます。
間接費を無理に割り振ってしまうと、逆に間接費の管轄責任や削減効果が見えにくくなってしまいます。

表の精度をもっと上げたいなら、間接費の中をもっと細かく調べて、部門分けできるものを見つけて直接費に振替えるしかありません。
振替えれない間接費はそのままにしておく方が賢明です。

“「部門別損益計算」では、無理に間接費を割り振らない” への2件の返信

  1. 初めてコメントします。事業運営上、同じことを思っていましたので、やっぱりそうなんだなと納得いたしました。ありがとうございました。

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