下請法改正で、約束手形が無くなる

下請法改正で、約束手形が無くなる

 

先週、取引先のA社から経理に電話がかかってきました。
こちらの銀行口座の確認でした。
聞けば、今月分の代金から銀行振込で支払う、とのこと。
「えーーーっ !!」 「ファクタリングがなくなるのー!」

一部上場のA社は15年前、支払方法を約束手形からファクタリングに変えました。
A社とこちらの間にファクタリング会社が入り、その代金を期日まで管理するのです。
もともとA社の支払い条件は、4ヵ月サイト(長さ)の手形。
ファクタリングになっても、その「4ヵ月」という支払いサイトは変わりません。
こちらは手形がないので、それまで使っていた銀行の「手形割引」が使えません。
その代わりに、こちらが頼めばファクタリング会社は、管理している代金の中から、頼んだ金額だけ資金化してくれます。
もちろん期日までの金利を差し引いて。
このファクタリングへの変更の目的は、手形発行の手間とコストを省くため。
大企業であれば、手形に貼る印紙代だけでも相当な金額になるでしょう。
私たちにとってのメリットは何もありませんでした。

しかし今回は違います。
月末締め、翌月末の現金(振込)支払になるのです。
代金の受け取りが4ヵ月早くなるのです。
もう50年以上続いてきた約束手形がなくなる。
こちらが舞い上がってしまうような大転換です。
とても経理に電話でちょちょっと伝えるようなことではないと思うのですが。

私たちの会社の売上の7割はA社向けです。
その代金4ヵ月分、数億円が、貸借対照表の「売掛金」に常に計上されています。
それがバサッと無くなるのです。
私はにわかに信じられず、A社の本社に電話で確認しました。
間違いありませんでした。
昨年末に政府から出された、「下請法改正の通達」に対応したもの、とのこと。
その中で、約束手形の支払いサイトを最長120日から60日に短縮することが求められています。
A社は好調な業績を背景に、一気に現金払いに切り替えたのです。

この大企業の支払サイト短縮の恩恵は、私たちの会社だけでなく、近いうちに日本中の中小企業に広がるはずです。
これは日本経済に必ず好影響を与えます。
この20年間、大企業には内部留保が一貫して貯まり続け、中小企業に回ってくることは一切ありませんでした。
それが「支払いサイトの短縮」を通じて、大企業にモノを納入している中小企業に資金が移転するのです。
中小企業が元気になることは、間違いなく日本経済活性化につながります。

ところで下請法は大企業だけを指導するものではありません。
資本金1千万超3億未満の会社が、資本金1千万以下の会社に支払う場合にも適用されるのです。
私たちも今振り出している約束手形を見直す必要があります。
順次、支払手形を現金払いに切り替えていきます。

約束手形がなくなる日、それはすぐそこまで来ています。

グループウェアの「罪」

グループウェアの「罪」

 

グループウェアを導入する会社が増えてきました。
パソコン内(サーバー内)のグループウェアソフトを使って、スケジュールや情報の共有、「既読確認」付の社内メッセージ、社内稟議など、非常に便利になりました。
おかげで机から机に回されるリアルな回覧板が一切なくなりました。
以前は、「あの稟議書、どこまで回ってる?」と大騒ぎしながら、管理職の机の上を探したものです。
そんなオフィスの光景もなくなりました。
グループウェアは一度使い始めると、その便利さで、すぐに無くてはならないものになってしまいます

しかし本当は、無くても全然大丈夫です。
私たちの関連会社には、グループウェアが導入されている会社と導入されていない会社があります。
両方の会社で仕事をしていると、グループウェアの「罪」も見えてきました。

一番の罪は、過度な情報共有でムダなコストが発生すること。
例えば、退職者が「社内メッセージ機能」を使って退職の挨拶を全社員100人に送ったとします。
「本日をもって退職いたします。在職中はみなさんにたいへんお世話に・・・・」
このメッセージを100人が開いて確認します。
そして100人のうち30人が、
「お疲れさまでした。新しい環境でのご活躍を・・・・」
というメッセージを返します。
その30人のメッセージをまた100人が開いて確認します。
これだけのやり取りにどれだけの時間を使ってしまうか。
100人の社員が確認するメッセージは、のべ3,100件。
メッセージを開いて閉じるまで、1件当たり20秒かかると仮定したら、
3,100件✕20秒=1,033分=17時間13分
社員100名の平均時給が1,800円とすると
17時間✕1,800円=30,600円
実に会社全体で17時間、3万円を浪費したことになります。
一人の退職の挨拶に。

また、このような情報共有が増えると、社員は何か情報が来ていないか頻繁にグループウェアをチェックするようになります。
プライベートな時間に頻繁にスマホをチェックするのと同じように。
便利なグループウェアも使い方を間違えると、「情報共有」という御旗のもとに社員の時間を盗み、不要なコストを発生させてしまうのです。
グループウェアを使っていて業績が上がらない会社は、使い方のルールを徹底するか、思い切って一度やめてみるのも良いのではないでしょうか。
きっといいことがありますよ。

蒸し返さない 「税務調査」

税務調査
税務調査が、ようやく終わりました。
調査期間中、調査官に教えてもらったことがあります。
それは数年前に実施された、「税務調査に関する手続き明確化」についてです。
事前通知の内容や方法、資料の持ち帰り、調査完了の手続きなど、いろいろルールが整備されたとのこと。
これは民主党政権時に、「納税者保護」を目的に、それまで曖昧だった税務調査の手続きを明確化したのだそうです。
民主党、グッドジョブです。
 
調査官によると、「前回の調査より前のことは、再調査できない」ということも基本ルールになっているようです。
もちろん重大な状況の変化があった場合は別でしょうが、原則、調査対象期間は前回調査以降だけ。
それより前のことは「蒸し返さない」のです。
これもグッドです。
何事につけ、蒸し返して幸せになることなんてありません。
 
残念ながら、税務調査には暗いイメージが付きまといます。
調査の通知が来ると、脱税などしていなくても、「何を調べに来るんだろう」と不安になります。
調査が始まり、調査官とあれこれ会話をしても、「本当の目的は何なんだ」と懐疑的になってしまいます。
これは調査を受ける側の率直な感覚です。
 
逆に調査官はどうでしょうか。
調査官も人の子、会社側がそんな感覚で調査官と接するなら、精神的にはしんどいでしょう。
真偽は定かではありませんが、精神を病む人も多いと聞いたことがあります。
調査の目的や手続きをクリアにすることは、税務調査官の負担も減らすことになるでしょう。
 
これからの税務調査は、悪質な脱税会社には、これまで以上に厳しく。
そして大半のちゃんとした会社には、「税務指導の行政サービス」という感じになれば理想的ですね。
調査官に気持ちよく帰ってもらうために、何か適当な「おみやげ」が必要、などという都市伝説もなくなってほしいものです。

今が不動産屋の転換点

今が不動産屋の転換点

 

先日、付き合いのある不動産屋に行ってきました。
市内で一番取り扱い件数の多い老舗の不動産屋です。
そこの店長の話によると、最近は賃貸の飛び込み客がめっきり減ったとのこと。
3年前の半分くらい、とか。

「人の動きが減っているんですかね」と尋ねると、そうではなく「SUUMO(スーモ)」の影響が大きいということです。
リクルートが運営する不動産物件の紹介サイトですね。
この2、3年の間にお客の動きが、「とりあえず不動産屋に行って」から「まずはネットで調べて」に変わったのです。

SUUMO以前は、どこかに引越しするとき、とりあえず引越先の最寄駅に行って、駅前の不動産屋を巡るのが基本動作でした。
たくさんの物件を見るにはそれしかなかったのです。
これはお客にとっては大変な負担でした。
転勤で引越しするケースでは、業務の引継に並行して転勤先の不動産屋巡りですから、不動産選びに実質半日くらいしかかけられません
奥さんも一緒に内見、なんてとても無理でした。
そう考えるとSUUMOなど紹介サイトの登場で、現住所にいながら転勤先の不動産を探せる、それも家族で一緒に探せるというメリットは大きいです。
不動産屋の飛び込み客が減るのも当然です。

今がちょうど不動産屋の転換点かも知れません。
いくら良い物件を抱えていても、お客が来ないのではその強みを発揮できません。
「管理物件は握りこむよりも公開した方が良い」
不動産屋の考え方の転換点です。
そうなると、これから先は一気に掲載物件が増えるはずです。

不動産屋の賃貸部門は、ネットショップになるのです。

ギターと製鉄とハンディキャップ

ギターと製鉄とハンディキャップ

 

ジャズギタリストのパット・メセニーはすごい経歴の持ち主です。
彼の有名なボストンのバークリー音楽大学に入学して、2年目には請われて講師になってしまったそうです。
20歳ですでにギターテクニック・作曲・理論すべてが卓越していたんですね。

そのパット・メセニーが公演のため来日した時、誘われて行ったライブハウス。
そこでギターを演奏していたのは渡辺香津美さんでした。
最初のうちどっかり座っていたパットが、途中で眼鏡を取り出し、身を乗り出し、最後はそそくさと帰って行った、というエピソードがあります。
その記事は「その夜パットは、ホテルで朝まで猛練習したに違いない」と締めくくられていました。

その渡辺香津美さんも大好きです。
香津美さんは小柄ということもあり、指が長くない、というか短いです。
ギターは当然指が長い方がいいのですが、香津美さんはギターを始めた頃からそのハンディキャップを十分認識していました。
その上で自分のスタイルを確立すべく猛練習した
とのこと。
ハンディキャップがあったからこそ、世界に認められるテクニックをもったギタリストになれたんですね。

ずいぶん前に経済誌で「日本の製鉄業がなぜ付加価値の高い製品を作れるようになったか」という記事を読んだことがあります。
お名前は忘れてしまったのですが、日本の製鉄業に多大な功績を残した方のお話が紹介されていました。

日本の製鉄技術が発達した一番の理由は、日本にいい鉄鉱石が無かったからだ。
日本にないから世界中から輸入するしかない。
世界中の鉄鉱石を研究して、作りたい製品に合わせた最高品質の鉄鉱石を輸入することに専念できた。

確かに日本国内に十分な量の鉄鉱石があれば、その鉄鉱石を使うことを前提に製品を作ってしまいます。
鉄鉱石が十分に無いというハンディキャップが、日本の製鉄を高度なものにしたんですね。

このギターと製鉄、二つの話は私の中でいつもセットになっています。