ギターと製鉄とハンディキャップ

ギターと製鉄とハンディキャップ

 

ジャズギタリストのパット・メセニーはすごい経歴の持ち主です。
彼の有名なボストンのバークリー音楽大学に入学して、2年目には請われて講師になってしまったそうです。
20歳ですでにギターテクニック・作曲・理論すべてが卓越していたんですね。

そのパット・メセニーが公演のため来日した時、誘われて行ったライブハウス。
そこでギターを演奏していたのは渡辺香津美さんでした。
最初のうちどっかり座っていたパットが、途中で眼鏡を取り出し、身を乗り出し、最後はそそくさと帰って行った、というエピソードがあります。
その記事は「その夜パットは、ホテルで朝まで猛練習したに違いない」と締めくくられていました。

その渡辺香津美さんも大好きです。
香津美さんは小柄ということもあり、指が長くない、というか短いです。
ギターは当然指が長い方がいいのですが、香津美さんはギターを始めた頃からそのハンディキャップを十分認識していました。
その上で自分のスタイルを確立すべく猛練習した
とのこと。
ハンディキャップがあったからこそ、世界に認められるテクニックをもったギタリストになれたんですね。

ずいぶん前に経済誌で「日本の製鉄業がなぜ付加価値の高い製品を作れるようになったか」という記事を読んだことがあります。
お名前は忘れてしまったのですが、日本の製鉄業に多大な功績を残した方のお話が紹介されていました。

日本の製鉄技術が発達した一番の理由は、日本にいい鉄鉱石が無かったからだ。
日本にないから世界中から輸入するしかない。
世界中の鉄鉱石を研究して、作りたい製品に合わせた最高品質の鉄鉱石を輸入することに専念できた。

確かに日本国内に十分な量の鉄鉱石があれば、その鉄鉱石を使うことを前提に製品を作ってしまいます。
鉄鉱石が十分に無いというハンディキャップが、日本の製鉄を高度なものにしたんですね。

このギターと製鉄、二つの話は私の中でいつもセットになっています。

いきなりフラッグシップ戦略

いきなりフラッグシップ戦略

 

フラッグシップ店(旗艦店)と聞くと、銀座や表参道、御堂筋のハイブランドの大型店舗をイメージします。

しかし最近は、新しい戦略をもった小ぶりなフラッグシップ店が出てきました。
それは中小企業が、新ブランドを立ち上げる際に、1号店をフラッグシップにするケースです。
いきなりのフラッグシップ店です。

例えば、銀座のスイーツ店の戦略。
銀座の路面に1号店を出した後は、店舗展開をせず、インターネット販売だけをしています。
つまり、ネット販売のために銀座にリアル店舗を出したのです。

また、麻布のお菓子屋の戦略。
麻布の新進のお菓子屋さんは、百貨店出店のために麻布の路面に店を出しました。
麻布に店を出したら人気が出て、百貨店からオファーが来た、というのではありません。
最初から百貨店への売り込みを目的に、麻布にモデル店を出したのです。
実際、2号店以降は百貨店で展開しています。

銀座の店はネット販売、麻布の店は百貨店を主戦場と位置付けています。
どちらも、「家賃の高い旗艦店のコストは、その主戦場で回収する」と最初から明確に決めています。
ハナっから、従来型の多店舗展開をするつもりはないのです。

この「いきなりフラッグシップ戦略」のメリットは、
① 勝負が早い
② 投下資本が少ない
こと。
あらかじめ事業の領域と成長戦略を明確に絞っているので、早い時期、例えば2〜3年で成否が決まります。
家賃の高い一等地の路面に出店しても、多店舗展開しないので、結局投下資本は莫大にはなりません。

従来は賃料の手ごろな場所に1号店を出し、ジワジワ育てて一等地で勝負する時機を窺がう、というのが一般的でした。
その間に数店舗出店して大きなお金を遣ってしまうことも。

「いきなりフラッグシップ戦略」は、資本の小さい中小企業に向いている戦略です。

10年以内に経理は無くなる、かも。

人工知能(AI)

 

税制改正で領収書のスキャナ保存が全面解禁されるなど、経理事務の簡素化をようやく国が後押しし始めました。

それにしても、なぜ納品書や請求書は発行する会社によってこれほどまでにバラバラなのでしょうか。
大きさもバラバラ、薄いものもあれば厚いものもあり、当然様式も違います。
ウチの会社もそうですが、このバラバラの帳票をキレイにそろえて糊付けして穴をあけて紐で綴って月ごとの冊子にする。
経理担当者はこれに多大な時間を費やしています。

もし国主導ですべての会社の納品書や請求書が統一されれば、それだけでも国全体で計り知れないほどの効率化になるでしょう。
バラバラであるメリットがあるとすれば、その帳票を見たらどこの会社のものか分かる、という程度のことです。
この効率化を国が主導しないのは、経理従事者の雇用、印刷会社の雇用を守るためではないか、と勘繰ってしまいます。

しかしこれから先、経理は一気に進化するはずです。
例えば、A社がB社に「電子請求」をして、B社の購買担当者がそれをポチッと承認するだけで、即時に銀行を通じて支払いが完了します。
同時にA社もB社も電子的に仕訳が完了。
B社の電子請求書には、電子納品書がセットされた形でデータ保存されます。
もう糊もハサミも必要ありません。

ほとんど経理担当者が介在する必要のない世界です。
経理は今の制度の下では非常に大切な仕事です。
しかし思い切って言えば、世の中を豊かにしていく仕事ではありません。
税制、銀行のフィンテック、経理ソフトさえ整備されれば、なくなっていく仕事です。

そうなるまで10年はかからないでしょう。
これから起きる急激な進化への準備運動として、冒頭のスキャナ保存にも取り組んでおきたいと思います。

冷蔵庫がスカスカ、だから銀行融資が増えない

冷蔵庫がスカスカ、だから銀行融資が増えない

 

景気が悪くなると、家の冷蔵庫の中もスカスカになるそうです。
ムダなものは極力買わないように。
冷蔵庫の奥で賞味期限切れを発生させないように。
今日要るものだけ今日買う。
明日要るものは明日買う。
バブルの頃、冷蔵庫をパンパンにしていた主婦も、在庫を減らして筋肉質な家計を構築しようとするのです
 
この20年間会社もできるだけ在庫を減らし、ムダな資産は処分して筋肉質な財務を目指してきました
そういえば昔は余分な在庫どころか、保養所やクルーザー、ベンツにマセラッティ、本業にまったく必要のないものもあちこちの会社の決算書に載っていました。
そのせいもあり、銀行借入も必要以上にありました。
 
なぜすべての会社が筋肉質を目指したのか。
何がライザップのような役割をしたのか。
やはり銀行です。
ある時から銀行が急に、「債務償還年数10年」というモノサシを企業に当てるようになったのです。
「全ての借入を10年で返済できない会社は借入過多」だと。
返済がキツくなって追加融資か期間延長を頼むと
「リスケ(リスケジュール)したら問題先に区分されるぞ」と騒ぎ立てる。
まったく根拠のない「10年」が、絶対ルールとなってしまったのです。
そんな状況のもと、企業は極力余分な借入をしない、できるだけ借入
を減らすという考えが定着しました。
 
それがここに来て、銀行は「もっと借りて」と言ってきます。
あの「10年」の話はどこに?
あれだけ「筋肉質になれ」と言っていたのに、今度は「少しぽっちゃりした方がいい」と。
そんな勝手な話にこちらも、「はい、そうですか」とは言えません。
俳優さんみたいに、急に痩せたり太ったりはできません。
 
銀行の貸出が伸びない原因は、他でもない銀行と金融行政にあるのです。

モノづくり大国の根っこにあるもの

モノづくり大国の根っこにあるもの

 

モノづくり大国「日本」という言葉は、何となく日本人のプライドをくすぐります。
モノづくり、技術が日本を世界有数の経済大国に押し上げた、と。
 
旧財閥系グループの会合でも、製鉄や重工が一番上座で、次に化学とかがあって、銀行が一番下座という序列があると聞いたことがあります。
日本を引っ張ってきたのは製造業なんだ、と言わんばかりに。
 
私たちの会社は典型的なモノづくりの会社です。
鉄やステンレスの大きな板を切って、曲げて、吊って、溶接して、製品にして、塗装して。
そんな会社にいると、「モノづくり」の別の面も知ることになります。
 
一番つらいのは労災事故です。
切れたり、挟まれたり、巻き込まれたり。
何かが起きた時は、会社中が異様な緊張感でいっぱいになります。
 
環境や人体への影響も気になります。
設計が悪いのか、現場が間違えたのか、大きな失敗作が外に並べてあるのを見ると、これは資源の無駄遣いだなーと思います。
また製造過程で出る、アルミの粉や塗装の排水も基準を守っているとはいえ、環境や体にやさしいものではありません。
 
夏の食堂はとにかく汗の臭いでいっぱいです。
しかし空調もない40℃をはるかに超える工場で、バンバン溶接をする彼らのおかげで会社は利益を上げることができるのです。
 
こういう危険や環境汚染や健康被害や汗のにおいが、モノづくり大国「日本」の根っこにあるものです。
いわゆる3Kですね。
私はこれからも日本がモノづくり大国であり続けるためには、これらのKをすべてなくしていく必要があると考えます。
今の私たちの会社は、この3Kを引き受けているからこそ、仕事が来ているのだと思います。
しかしそんなことを言っていたらこの先確実に働き手がいなくなります。
 
モノづくり大国の根っこにある問題を、モノづくりの力で解消していく、それこそがモノづくり大国を未来につないでいくのに不可欠なことだと思います。