勝てる中小企業のつくり方 ➂ プラグイン経営とオーナーシップ

 

これからの中小企業はプラグイン経営を目指すべき、と考えます。
自社に必要な情報やスキルを持っている外部の人材を、社長または役員として招き入れ、会社の強みにする。
その人材が持っている情報・スキルを、自社にプラグインするのです。

そのためには、プラグイン可能な会社に設計しておく必要があります。
社内でのオーナー色・影響力をできるだけ無くし、役員数名がフラットな関係で、経営を分担している会社。
例えば製造業の会社で
<社長> 大企業からモノづくりのトッププロを招へい、製造部門を担当
<専務> 財務・人事部門を担当
<常務> 営業部門を担当
というように、非オーナーの三者でトロイカ体制を作るのです。

「社長」だからと言って、すべてを掌握する必要はありません。
そんな能力を求めても、「モノづくりのトッププロでしかも財務もできる」、なんて人材は大企業にもいません。
あくまでモノづくりの強化のために招へいするのですから、製造部門をリードしてもらえればいいのです。
極論すれば、社長が誰になっても大丈夫、というくらいの体制をつくっておくのです。

ところで、このプラグイン経営でのオーナーの役割は何か。
中小企業である限り、非上場企業である限り、オーナー企業であることに変わりはありません。
プラグイン経営においても、オーナーしか出来ない役割があります。
➀銀行借入の連帯保証
大企業から招へいした社長に、連帯保証させることは出来ません。
これは従前どおり、オーナーの役割です。
➁プラグインする人材の決定
会社の状況と、人材の情報を突き合わせて、誰を招へいするか。
これは決めるのは、やはりオーナーの役割です。
経営に直接タッチしていないからこそ、公正で的確な判断が期待できます。

このようにプラグイン経営は、「資本」と「経営」の分離でもあります。
これからの中小企業は、もっとオープンに人材を受け入れ、もっとフラットに人材が活用される、「社会の公器」にならなければ成長は難しいでしょう。
オーナー社長の才覚だけでは限界があります。
それにいち早く気付いて体制を転換したオーナーだけが、永くオーナーとして生き残ることになるでしょう。

勝てる中小企業のつくり方 ② プラグイン経営への転換

 

元請け(仕事をもらっている先)の大企業から、モノづくりのトッププロを招へいして、自社のモノづくりを強化する。
それが出来れば、間違いなく会社は強くなります。
とてもシンプルな強化法です。

ただ、このシンプルな強化法を成功させるためには、前提条件があります。
それは
➀オーナーが会社に常駐していないこと
➁経営上の権限を一人に集中せず、役員数人で分担していること。
つまり、オーナーがいなくても自主運営できる会社であることです。

私はそのような経営スタイルを、「プラグイン経営」と呼んでいます。

「プラグイン」とは、IT用語で、「機能拡張用ソフト」を意味します。
アプリケーションに何かの機能を付加したい時、アプリケーション自体をバージョンアップさせるのではなく、そのアプリケーションに「プラグイン」を注射して機能を追加するのです。
そのためには当然、アプリケーションはプラグインを受け入れることを前提に設計されています
アプリケーションのユーザーは、自分が必要な機能のプラグインをいくつでも付加することが出来ます。

プラグイン経営は、外部の優秀な人材を受け入れて、効率よく自社の強みにしていく経営スタイルです。
そのためには、会社自体が、プラグインを受け入れる設計になっていなくてはいけないのです。

もちろんすべての中小企業にプラグイン経営が適しているわけではありません。
オーナー社長の牽引が効果的な創業時期や、小企業では必要ありません。
しかし、そんな会社も成長して企業規模が大きくなったり、また代替わりして創業者のカリスマがなくなると、プラグイン経営が有効になってきます。

そう考えると、すべての中小企業はプラグイン経営について考えておく必要があると考えます。

勝てる中小企業のつくり方 ① トッププロを招へいしてフル活用する

 

製造業を営む中小企業の大半は、大企業の下請けです。
競合相手は、同じように大企業に納品している中小企業。
つまり、同業の中小企業に競争優位に立てれば、納品量を増やして儲けを増やすことが出来ます。

そのためには、「モノ(製品)」を強化して競争力を高める以外ありません
その一番確実で手っ取り早い方法は、元請けの大企業から、モノづくりのトッププロを招へいすることです。
具体的には、元請けのOB、出来れば元製造部長くらいを招へいします。
同じ部長でも経理部長を招へいしても意味がありません。
これまでこちらの製品の品質や納期にあれこれ要求を出してきた人を、こちらに取り込むのです。

このように元請け大企業から人材を受け入れている中小企業はたくさんあります。
しかしその人材を活用出来ている会社は少ないように見受けられます。
これは本当にもったいないことです。

私たちの会社では、その人材を最大限に活用するために、「社長」になってもらいます。
「社長」に就いてもらうことは、会社から社員へのメッセージになります。
「これからウチは、新社長の品質基準でモノづくりをするよ」
という強いメッセージです。
また、招へいされた本人も、「社長」でなければ、本気にならないでしょう
「常務」くらいでは、「お手伝いに来ました」的な、天下り気分になってしまいます。

とにかく、せっかく取り込んだトッププロを、使い倒さなければいけません。
お飾りではダメです。
その人材がもっている、モノづくりに関する技術的な情報や品質管理のノウハウを、フル活用するのです。
それを阻む要因をすべて排除してフル活用する。
それさえできれば、間違いなく自社の「モノ(製品)」は強化され、競合他社に勝っていけるのですから。

シンプルな話です。

ゲームの「リセット」が遅れた、ジャパンディスプレイ

 

50代の私たち以上の世代が、十代、二十代の若い子に難癖をつけるとき、
「小さい時からゲームばかりしているから、何かちょっと難しいことがあると、すぐにリセットしようとする。
リセットすれば解決すると思ってる」

などと言うことがあります。
困難なことに正面から向き合おうとしない。
根気が足りない。
すぐ諦める。
すぐ会社を辞める。
ゲームの「リセット」が、安易で短絡的で、不真面目なことと考えてしまいます。

しかし逆に私たち世代の失敗の多くは、早めに「リセット」が出来ないことから起きているケースが多いのではないでしょうか。
東芝しかり、シャープしかり、ジャパンディスプレイしかり。

先日、ジャパンディスプレイの再建策が発表されました。
特別損失を1500億以上計上し、4000人を削減。
事業の一番の失敗は、「液晶」にこだわり過ぎたこと。
そのため、「有機EL」への転換が遅れ、韓国勢に相当な遅れをとってしまいました。

あんなに長い時間、心血注いで開発した「液晶」。
技術的にも世界一だ。
そんなに簡単にあきらめてたまるか。
もっと頑張ればなんとかなる。

こんな考え方は、中学の部活で、
とにかく、年中走る。
階段うさぎ跳び。
水を飲むのは禁止。
で仕込まれた私たち世代の性(さが)です。

若い子たちの、「安易なリセット」にももちろん問題はあります。
しかし同じように、私たち世代の「リセットできない習性」にも問題はあることを肝に銘じておきたいものです。

人事戦略のキモのキモは、「賃金カーブ」の明示

 

人事戦略を立てるとき、先ず取り組むべきは、「賃金カーブ」を描く(設定する)ことだと考えます。
「賃金カーブ」は、ご存知の通り、横軸が年齢、縦軸が給与額のグラフです。
入社後、年数が経つにつれ給与額が上がり、50歳過ぎにピークに達し、その後は下がっていきます。
会社の規模や職種で給与額の差こそあれ、曲線の形は似たようなものでしょう。

大企業では当たり前に社員に明示されている「賃金カーブ」。
しかし中小企業では、社員がいつでも見れるように開示されているケースは稀でしょう。
従業員数10名以下(ここでは小企業と呼びます)では、賃金カーブ自体が設定されていないのが普通です。

社員の立場になれば、この賃金カーブは非常に大切です。
自分がこの会社で仕事を続けていけば、将来給与はこうなる、というグラフ。
将来設計にも直結することですから、これ以上の関心事はないでしょう。
そういう社員の関心は、大企業も中企業も小企業も違いはありません
ですから、社員のためには、規模に関わらず、すべての会社が「賃金カーブ」を明示した方が良いと思います。

一般的に、賃金カーブは、「給与テーブル」を元に作成すると思われています。
ちゃんとした給与規定と「給与テーブル」が無ければ描けないと。

そんなことはありません。
給与規定が無くても、給与テーブルが無くても、賃金カーブは描けます。
社長が、目をつむって、社員たちをイメージしながら
「ウチの社員には、年齢に応じてこのくらいの給料をとれるようになってほしい。
30歳でこれくらい、35で、40で、45で、50でこれくらい」
それを結んでグラフにするだけです。
そうやって描いた賃金カーブは結局、
「ウチの社員には、年齢に応じてこれくらいの仕事ができるようになってほしい。
30歳でこれくらい、35で、40で、45で、50でこれくらい」
という、社員に対する「成長期待」のグラフそのものなのです。
「成長期待のグラフ」=「会社への貢献度のグラフ」=「賃金カーブ」と考えてもいいでしょう。

繰り返しますが、一番大切なのは「賃金カーブ」です。
給与テーブルなんて「おまけ」みたいなものです。
もし社員全員が自社の賃金カーブより上にいるとすれば、それは本当に素晴らしいことです。
それは全員の成長度合い、貢献度が標準以上ということ。
決して人件費がオーバーしているとネガティブに考えてはいけません。
本当にネガティブな状態であるなら、それは評価の仕方が間違っているのです。

逆に賃金カーブより下に位置する社員には、
・なぜ下になっているのか
・どうしたら賃金カーブ以上になるのか
を伝えてあげましょう。

オープンで公正な人事が、社員の成長を後押しします。
賃金カーブは、会社(社長)が求めるものと、社員が目指すものを一致させる大切なグラフなのです。