「ゴルフツアープロアマ戦騒動」で考える、会社と職人の関係

「ゴルフツアープロアマ戦騒動」で考える、会社と職人の関係

男子プロゴルフツアーの「プロアマ戦騒動」を引き起こした核心的原因は、片山プロが根っからの「ゴルフ職人」であることではないでしょうか。

「職人」というのは、自分の専門分野、専門技術に対するこだわり・思い・プライドがハンパない人のこと。
自分の「技術」に関しては、一切妥協することなく完璧を追求する。
それだけに、自分の「技術」に対する他人の干渉をひどく嫌います。
反面、自分の「技術」以外には、とんと無頓着
愛想を良くして周囲との関係を良好に保とう、などという感覚はありません。
愛想が良くて、技術が完璧な職人がいればベストなのですが、現実はそんな人はなかなかいません。
専門技術への強いこだわりと、それ以外への無頓着がセットされているのが「職人」なのです。
その両方の性質を総称して、「職人気質(かたぎ)」と呼ぶのでしょう。

どんな業種、どんな会社にも「職人」はいます。
私たちの会社にも、溶接の職人たちがいます。
不愛想で口が悪く、喧嘩早い。
だけど仕事は早くてキレイで、妥協なし。
彼らがいなければ、会社は成り立ちません。
会社にとって「職人」は絶対必要です。
ですから会社を経営していくうえで、「職人気質」を理解して、「職人」をどう生かしていくかは非常に大切なテーマなのです。

繰り返しますが、片山プロは根っからの「ゴルフ職人」です。
不愛想なのは今に始まったことではないでしょう。
プロゴルファーをそれぞれ「個人事業主」として捉えるなら、今回の騒動はすべて個人事業主である片山プロに責任があることになります。
しかし、「日本ゴルフツアー機構」を一つの会社として捉えるなら、「ゴルフ職人」を一つのリソースとしてどう扱ってどう生かしていくかは、機構にとって非常に大切なテーマです。

ゴルフ職人を「愛想良し」に変えることが必ずしもツアーを良くしていくことにはならないかも知れません。
ゴルフ職人には、「懇親」目的のプロアマ戦ではなく、「技術」でゴルフファンと交流する場を与える方法もあるのではないでしょうか。

先進的な機能を、先進的すぎないスタイリングで提供する

先進的な機能を、先進的すぎないスタイリングで提供する

先月の英国ヘンリー王子の結婚式で、王子自らブルーのオープンカーを運転して、パーティー会場に移動されていました。
そのオープンカーは、「世界で最も美しい車」と評されたジャガーEタイプ。
クラシカルで美しいフォルムですが、その中身は完全にEV(電気自動車)化されているとのこと。
イギリスの伝統美と、先進のEVの組み合わせが、非常に新鮮で魅力的に映りました。

EVと言えば、米国テスラ。
創業からわずか15年で、EVの寵児となったテスラは、「革新的企業」の代表でもあります。
以前、テスラのデザイン戦略に関する記事を雑誌で読んだことがあります。
「電気自動車」という先進的製品だからこそ、あえて先進的すぎないスタイリングにするとのこと。
つまり、顧客がそれまでになじみのないEV車を買うかどうか検討するとき、スタイリングまでなじみのないものになってしまうと、抵抗感が増してしまう、という考え方です。
例えば、テスラ・ロードスターのシャシーには、既存の自動車の中からスタイリッシュなデザインの「ロータス・エリーゼ」のシャシーを採用しました。
その後自社開発した「モデルS」まで、スタイリッシュではありますが、先進的・未来的な奇抜なデザインにはなっていません。

先進的な機能を、先進的すぎないスタイリングで提供する。
このマーケティングの考え方は参考になります。
特に私たち日本人には。
私たち日本人は、「先進的・未来的な自動車は、先進的・未来的なスタイリングであるもの」と、無意識に生真面目に考えてしまいます。
これは案外マーケティングとしては損をしているのかも知れません。
例えばお客が車を買おうとするとき、気に入った車種のラインナップの中に、ガソリン車とEVが用意されていた方が、EV購入の決断をしやすくなるのかも知れません。
ちょうど、ガソリン車とディーゼル車をチョイスするように。

車に限らず、先進的な製品・サービスを売る時、このマーケティングの考え方は参考になります。

銀行員はなぜ書類を改ざんするのか

銀行員はなぜ書類を改ざんするのか

シェアハウス関連融資で、スルガ銀行が揺れています。
シェアハウスの運営会社「スマートデイズ」が破産、「30年間家賃保証」が不能になり、物件に投資した700人の個人投資家も、破産予備軍状態です。

この件で大きく採り上げられているのは、スルガ銀行の行員の重大なコンプライアンス違反。
行員による「土地売買価格の水増し」や「借主の資産状況資料の改ざん」といった不正です。
このような不正は、当然あってはならないことですが、これまでにもあちこちの銀行で起きてきました。
昨年明るみになった、商工中金の「制度融資悪用」も似たようなものでしょう。

銀行員は、なぜ、どういうときに書類を改ざんするのか。
そのままでは審査が通らないような「不良案件」を通るように改ざんする、と思われがちですが、そうではありません
逆です。
「この案件は焦げ付く心配がない」と思っているから、改ざんするのです。
心配がない案件だから、少し基準に届かない数字があるなら下駄を履かせて、審査をスムーズに通しちゃおう、という感じです。
そんな風に安易な感覚で改ざんしているケースがほとんどでしょう。

銀行員にとって何よりも恐ろしいのは、自分が関わった融資案件が焦げ付いて、その責任を問われることです。
ですから、どんなにノルマに追われても、焦げ付きそうな「不良案件」に手を出すことはありません。
過去からの経緯で、どうしても若干のリスクを含んだ融資を実行せざるを得ない時は、絶対に資料の改ざんはしません
自分の身を守るために。

スルガ銀行にしても、商工中金にしても、多くの行員が不正に関与したと報じられています。
それは、多くの行員が、同時に「この融資は焦げ付くことはない」、「この融資で自分が責任を問われることはない」と考えたということ。
この特異な状況は、銀行自体が一連の融資に「お墨付き」を与える以外には起き得ないのです。

ベトナム人技能実習生のおカネ事情

ベトナム人技能実習生のおカネ事情

先月、私たちの会社のベトナム人技能実習生3人が、3年の実習期間を終え帰国しました。
(うち2人は実習期間を2年延長するので、1ヶ月後に再来日します)

「溶接技能」の習得を目的に来た彼らは、「技術を身につけたい」モチベーションがハンパなく、同世代の日本人よりもずっと早いスピードで上達しました。
当初は、基本の「鉄」の溶接だけを習得させる予定だったのですが、その習熟度を見て、2年目から鉄よりも難しい「アルミ」の溶接にもチャレンジさせました。
最近は、彼らがいなくなると現場が困ってしまうほどの戦力になりました。

3人が帰る日、下世話な質問をしてみました。
「3年間で、ちゃんと目標の額のおカネ貯まった?」
来日したとき3人とも、「3年間で200万貯める」ことを目標にしていました。
その結果を知りたかったのです。
因みに、ベトナムの平均的な月給は日本円にして2〜3万ですから、「200万円」というのは彼らにとって相当大きな金額です。
答えは、「YES」。
3人とも期間中、毎月10万以上をベトナムに送金したとのこと。
実質35ヵ月ですから、実に350万以上のおカネを送金したことになります。
目標額をはるかに超えました。

あらためて彼らの源泉徴収票を確認してみました。
23歳の実習生の2年目の源泉徴収票は次の通りです。
<給与総額>  2,440千  (賞与・残業代込)
<控除額>     317千  ( 社会保険 272千 + 所得税 45千 )
<天引き>    204千  ( 寮費・光熱費・WiFi 月15千 + 社員旅行積立 月2千 )
<差引手取り> 1,919千

月平均にすると、159千円の手取り。
そのうち、100千を送金すると、残りの59千円が生活費。
なるほど、贅沢しなければ難しくはない金額です。
会社から2キロの古民家を改装した寮から自転車で通勤。
三食すべて自炊、昼ゴハンもベトナム料理を弁当にして持参。
食材は寮から4キロのディスカウントストアに自転車で買い出し。
地方では遊ぶところも少なく、おカネを貯めやすい環境が整っています。
そういう事情が外国人技能実習生にも伝わり、最近は地方の企業を志望する実習生が増えたのだとか。

実習生は来日するために本国で100万円程度の借金をしています。
その返済のためにも、おカネを貯める必要があるのです。
そのような実習生のおカネ事情を理解して、社内で徹底しなければいけないことがあります。
それは、日本人社員が実習生を「飲み」「遊び」に連れまわさないこと
彼らのおカネ事情を崩さないために。

眼鏡屋社長さんから聞いたタメになる話

眼鏡屋社長さんから聞いたタメになる話

「最初に大きく網を投げて、ゆっくりゆっくり引っ張る」

これは、関西の中心商店街の一等地に店を構える、老舗眼鏡屋の社長さんから聞いた「マーケティング」の考え方です。
(マーケティングを漁に例えて)
商売を始めるとき、新しく店をつくるとき、小さく網を投げてはいけない。
どこに、どんな魚が、どれだけいるかハッキリ分からない状況では、まずは可能な限り大きく網を投げてみる
そしてゆっくりゆっくり網を引く
そうすると「網の目」から、ターゲットでない魚が逃げ出す。
ゆっくりゆっくり引くのは、ターゲットでない魚が逃げていく時間を与えるため。
もし網を強く一気に引くと、ターゲットの魚もそうでない魚もガサッと網に引っかかってしまい、ターゲットの魚を傷つけるかも知れない。
ゆっくりゆっくり引いて、最後は自分たちのターゲットの魚だけをきれいな状態で残す
大切なのは、どんな「網の目」を用意するかだ。

この眼鏡店の場合は、高級眼鏡の専門店なので、「網の目」で富裕層をすくい取っているイメージを持ってしまいます。
しかしそうではありません。
この店には眼鏡づくりの最高峰、「ドイツマイスター制度」の認定を受けた数少ない日本人マイスターが常駐しています。
世界最高レベルの技術で、お客一人一人に合わせて眼鏡を仕上げるのです。
必ずしも富裕層に属さない人であっても、人一倍眼鏡にこだわっている人であればこの店のお客になるでしょう。

中小企業は、大企業のように幅広く顧客をとっていくと、儲かる商売にはなりません。
自分たちの店、会社は何を「網の目」にして、どんなお客をその中に残そうとしているのか。
つねに自問自答しなくてはならないのです。