銀行員時代の上司、副支店長が言った言葉が今でも記憶に残っています。
「銀行は融資をする時には、1%のリスクもとってはいけない、
お客から預かったカネを貸し付けるんだから。
結果的に、何年か後に焦げ付いたとしても、融資を実行する時にはそのリスクはゼロにしなきゃダメだ」
分かりにくい言葉ですが、「銀行」を理解するうえでは、示唆に富んでいます。
景気が良かろうと悪かろうと、毎月のように会社の倒産は起きています。
その都度、どこかの銀行に貸し倒れが発生します。
現実には貸し倒れのリスクをゼロになんかできません。
当然副支店長も、すべての案件に「貸し倒れリスク」があることは分かっています。
副支店長が言っているのは、稟議書の書き方の「暗黙のルール」なのです。
例えば貸付の稟議書で、下のように書いたとします。
①今期は1000万の赤字を見込むが、今期のリストラ効果で来期は赤字幅が大幅縮小見込み。業績不透明につき若干の回収懸念はあるものの、長年の取り引きを勘案し是非支援したい。
これは絶対に「✕」です。
②今期は1000万の赤字を見込むが、今期のリストラ効果で来期は赤字幅が大幅縮小見込み。業績不透明ながら、当社の売却可能な遊休不動産を勘案すれば、最終的な回収懸念なし。
これなら「〇」です。
とにかく、間違っても「回収懸念がある」と書いてはいけないのです。
なぜなら、この微妙とも言える違いは、将来その貸し付けが焦げ付いたときに、大きな違いとなって担当者に戻ってくるからです。
それは銀行本部がする担当者・担当役職者の評価です。
①の場合 回収懸念があるものをなぜ実行した !
②の場合 融資時点ではリスクを察知できなかったのであれば、仕方がない。
となるわけです。
稟議書を「リスクゼロ」にするのは、銀行員自らを守るための術なのです。
そう考えると、案件が「リスクゼロ」なのではなく、銀行員にとって「リスクゼロ」なんですね。