頑張り過ぎないための「財務」

頑張り過ぎないための「財務」

 

中小企業の社長は、ほぼ全員が頑張り屋です。
特に自分で事業を立ち上げた創業社長は間違いなく頑張り屋です。
社長が頑張り屋だから会社を成長させることが出来たのでしょう。
しかし、会社がおかしくなるのも、社長の頑張りが原因であることが多いです。

事業を起こした人の大半は、何かの「きっかけ」があり、その事業に取り組むことが「必然」と考えたのではないでしょうか。
例えば会社勤めの中で、強く惹かれるテーマを見つけ、自分でやるしかないと独立・起業を決断した。
または信頼する友人から、その友人の事業の一部をやってくれないかと持ち掛けられ、それに応える形で起業したとか。
何もきっかけがない中で、いろんな事業を比較検討して起業した、というケースは稀でしょう。

ですから事業を立ち上げた時点では、何を頑張ればよいか明確です。
頑張り屋にはもってこいの状況です。
例えれば、目の前に上るべき坂道があり、これを上ることに集中すればよい、という状況です。
持ち前の頑張りで何年かかけて坂道を上り切ると、道は平たんになります。
ここで頑張り屋の社長は困ってしまいます。
これまで坂道を上る負荷を、会社成長の実感としていました。
道が平たんになり、ふっと急に負荷がなくなり体が軽くなったのが、不安でしょうがないのです。

ここで「財務」の出番です。
坂道を上り切ったということは、当初の事業目的を果たし、会社のステージが一段上がったということ。
この時点で大切なことは、今の会社の状況を数字でしっかり分析・把握することです。
例えば、このまま3年間平坦な道を楽に進んだら会社はどうなるか。
十分に分析した結果、このままでも着実に利益を残していける、と出たならば、安心して巡航運転すれば良いのです。

良くないパターンは、頑張り屋の社長が、負荷が無くなった不安から、無理やり次の負荷を探そうとすることです。
やってきた事業のシェアを一気に伸ばすために多額の投資をしたり、やってきた事業と関係ない事業に進出してみたり。
ここから会社がおかしくなって行くのです。

巡航運転をするには意味と目的があります。
巡航運転をしながら、次の「きっかけ」と「必然」を探すのです。
最初に事業を起こした時と同じ、「きっかけ」と「必然」です。
落ち着いて周りを見ながらゆっくり進めば、必ず次の「きっかけ」が見つかります。
そうやって見つけた「きっかけ」は、自分で強引に導き出した成長戦略よりも、はるかに成功しやすいもののはずです。
次の「きっかけ」を見つけるまでは、社内の効率化や福利厚生の充実、資産の洗替など、しっかりメンテナンスをしておくことです。

財務は、「頑張り過ぎない」ためのものでもあるのです。

粉飾決算の王道 「在庫操作」

粉飾決算の王道 「在庫操作」

 

中小企業の粉飾決算の大半は「在庫」を操作する手口です。
銀行が企業から決算書を受け取って分析する場合、必ず在庫金額の推移に不自然さがないかをチェックします。

当然、粉飾決算を指南するつもりはありませんが、「在庫」の特性を理解する上では、粉飾の仕組みを確認することが役に立ちます。

「在庫」はなぜ操作しやすいのか。
➀ まず実際に在庫を棚卸しても、1円も間違えずに数えることは至難の業です。
つまり在庫金額には必ず不確実性がつきまとう、少しいい加減な科目なのです。
➁ 在庫は捨てることが出来ます。
腐ったり売れなくなったりした在庫は処分します。
この人為的な判断で在庫を減らすことが出来る、めずらしい科目なのです。
➂ 減らすことが出来るということは、増やすことが出来るということ。
在庫は「仕入」と「売上」がめまぐるしく発生する中でその残高が動いています。
上の②のように意図的に減らすことが出来るのであれば、少し多めに計上しておいても大丈夫、ということ。
なぜなら、捨てることでいつでもアジャストできるのですから。

「在庫」を使った粉飾を貸借対照表で考えてみます。
貸借対照表上の「在庫」を100万円増やしたらどうなるか。
貸借対照表の左側(借方)が100万増えるわけですが、これをバランスさせるためには、左側のどれかを100万減らす、もしくは右側(貸方)のどれかを100万増やすしかありません。
しかし他の科目をヘタに増減させるとすぐに矛盾が起きてしまいます
例えば右側の「買掛金」を増やしてしまうと、支払う先のない買掛金になってしまい、ずっと帳簿に残ってしまいます。
例えば左側の「預金」を減らしても、すぐにつじつまが合わなくなってしまいます。
そんな感じで結局、在庫100万増の相対で動かすことが出来るのは、右側(貸方)の資本の部、繰越利益剰余金の中の「当期利益」しかないわけです。
左側の「在庫」と右側の「当期利益」が直結しているのです。
つまり、在庫が100万増えれば当期利益が100万増える、在庫が100万減れば当期利益が100万減る。
至ってシンプルな関係です。

粉飾決算はしてはいけないことですが、在庫と利益が直結していることはしっかり認識しておかなければいけない事実です。
在庫を管理することは、利益を管理すること、なのです。

お布施ローン

お布施ローン

 

大学を卒業して、銀行に入社した1年目のこと。
融資関係の帳票が入っている棚を整理していると、
「〇〇提携ローン申込書」
というのを見つけました。
○○は宗教法人名です。

先輩に「この申込書は何ですか」と尋ねました。
先輩は「あまり使うことはないけど、お布施ローンだね。
信者さんが、お布施したいけど手元にお金がないときにローンを組むんだ。
上限は200万。
宗教法人が保証してくれるから、銀行も貸し倒れになるリスクはないんだよ」
と教えてくれました。

新入行員の私には、ちょっとしたカルチャーショックでした。
世の中、こんなことが行われているのかと。
と同時に、「うまいこと考えるなー」と感心してしまいました。
先輩の説明の通り、銀行にとっては大きな宗教法人の保証があるのでノーリスク。
宗教法人にとっても、入ってくるお金について保証するだけなので、ノーリスク。
途中で信者さんが返済できなくなっても、残金を宗教法人が代わりに払えばすべてまるく収まります。
返済が進んだところまでが実質的なお布施になるのです。

他人の「連帯保証」は絶対してはいけない、と言われます。
私もそう思います。
しかし「お布施ローン」方式なら、連帯保証しても良いかも知れません。
例えば、誰かにお金を貸していてなかなか返してくれないケース
相手に銀行から借り入れをさせて、そのお金で返してもらう。
その銀行借入だけは連帯保証する。
金融機関を間に入れることで、返済の強制力が強くなり、最終的に回収する可能性が高くなるのです。

下請法改正で、約束手形が無くなる

下請法改正で、約束手形が無くなる

 

先週、取引先のA社から経理に電話がかかってきました。
こちらの銀行口座の確認でした。
聞けば、今月分の代金から銀行振込で支払う、とのこと。
「えーーーっ !!」 「ファクタリングがなくなるのー!」

一部上場のA社は15年前、支払方法を約束手形からファクタリングに変えました。
A社とこちらの間にファクタリング会社が入り、その代金を期日まで管理するのです。
もともとA社の支払い条件は、4ヵ月サイト(長さ)の手形。
ファクタリングになっても、その「4ヵ月」という支払いサイトは変わりません。
こちらは手形がないので、それまで使っていた銀行の「手形割引」が使えません。
その代わりに、こちらが頼めばファクタリング会社は、管理している代金の中から、頼んだ金額だけ資金化してくれます。
もちろん期日までの金利を差し引いて。
このファクタリングへの変更の目的は、手形発行の手間とコストを省くため。
大企業であれば、手形に貼る印紙代だけでも相当な金額になるでしょう。
私たちにとってのメリットは何もありませんでした。

しかし今回は違います。
月末締め、翌月末の現金(振込)支払になるのです。
代金の受け取りが4ヵ月早くなるのです。
もう50年以上続いてきた約束手形がなくなる。
こちらが舞い上がってしまうような大転換です。
とても経理に電話でちょちょっと伝えるようなことではないと思うのですが。

私たちの会社の売上の7割はA社向けです。
その代金4ヵ月分、数億円が、貸借対照表の「売掛金」に常に計上されています。
それがバサッと無くなるのです。
私はにわかに信じられず、A社の本社に電話で確認しました。
間違いありませんでした。
昨年末に政府から出された、「下請法改正の通達」に対応したもの、とのこと。
その中で、約束手形の支払いサイトを最長120日から60日に短縮することが求められています。
A社は好調な業績を背景に、一気に現金払いに切り替えたのです。

この大企業の支払サイト短縮の恩恵は、私たちの会社だけでなく、近いうちに日本中の中小企業に広がるはずです。
これは日本経済に必ず好影響を与えます。
この20年間、大企業には内部留保が一貫して貯まり続け、中小企業に回ってくることは一切ありませんでした。
それが「支払いサイトの短縮」を通じて、大企業にモノを納入している中小企業に資金が移転するのです。
中小企業が元気になることは、間違いなく日本経済活性化につながります。

ところで下請法は大企業だけを指導するものではありません。
資本金1千万超3億未満の会社が、資本金1千万以下の会社に支払う場合にも適用されるのです。
私たちも今振り出している約束手形を見直す必要があります。
順次、支払手形を現金払いに切り替えていきます。

約束手形がなくなる日、それはすぐそこまで来ています。

実現可能性の高い「中期経営計画」をつくる ②

実現可能性の高い「中期経営計画」

 

中期(5年)経営計画を作成する際、まず「現状維持計画」を作ります。
現状維持が5年続いたら、キャッシュフローや貸借対照表はどう推移するかを確認しておこうというものです。
 
仮に、現状維持計画で4年目にキャッシュ不足になると分かった場合、その対策をどのように計画に盛り込むか
これも大切なポイントです。
 
ここで陥りやすい間違いは次のパターンです。
①キャッシュ不足にならないように売上予算を増やす
②キャッシュ不足にならないように経費予算を減らす
そのようにエクセルの表で、数字を入れ替えながらシミュレートするのは簡単です。
しかし実際に売上増・経費減することは簡単なことではありません
結局その予算は「希望的予算」です。
キャッシュ不足は会社の倒産原因になり得る重大な問題です。
その対策を、希望的予算で片づけては絶対ダメです
 
正しい対策は、
③キャッシュ不足にならないよう、4年目に新規借入をする
④もしくはそれまでに借入を組み替えて返済額を減らす
ことです。
もし①②の計画だけで済ませてしまうと、財務担当者がすべき確実な対策③④をしないで時間が過ぎてしまいます
③④をやったうえで、結果的に①②もできてかなりの資金余剰になったとしたら、それは素晴らしいことと評価したらよいのです。
 
キャッシュ不足の対策だけは、希望的予算に頼るのではなく、確実かつ能動的なものを必ず計画に入れておきましょう。