儲からない会社の、「おカネの遣い方」

儲からない会社の、「おカネの遣い方」

 

以前、二十代後半の女性社員が、
「最近友達の結婚式が続いて、出費がすごいんです。
毎日頑張って節約してるのが馬鹿らしくなってきます。」
と嘆いていました。
一人暮らしの彼女は、家賃をはじめ生活費をすべて自分で支払い、その中でコツコツと将来の結婚資金を貯めているのだそう。
お昼も外食はもっての外、毎日自分で作った弁当を持参、机で済ませます。
そうしてコツコツ貯めたお金がドーン、ドーンと出ていく
「節約が馬鹿らしくなる」という彼女の気持ちも理解できます。

しかしヤケになってはいけません。
ヤケになって節約をやめ、放漫なカネ遣いをしてしまうと、一気に奈落の底です。
「祝儀の3万円」は、避けられない接待交際費であり、金額も妥当です。
ムダ遣いではありません。
「毎日弁当で節約する500円」は経常的なランニングコストを削減する、これも評価できるアクションです。
両方ともまったく問題のない、正しいおカネの遣い方です。
このように、おカネの遣い方は、金額の大小ではなく、遣い道ごとに評価され管理されるべきものなのです。

もう一つ、パチンコにハマる主婦の話。
パチンコ愛好家の主婦の中で、ある程度の枠の中で遊べる人と、枠を超えて破滅に向かう人がいます。
破滅型の主婦の特徴は、パチンコでの勝ち負けを繰り返す中で、パチンコの収支と家計費がごっちゃになってしまうことです。
日に7万勝ったり10万負けたりを繰り返すうちに、50円安いスーパーを探す気が無くなるのです。
節約なんかしなくても、パチンコに勝てばいい。
そんな節約したって、パチンコに負けたら何の足しにもならない。
このように、金額の大きいパチンコと、小さい家計費を分けて管理できなくなると、破滅に向かいます。

中小企業のおカネの遣い方にも通じるところがあります。
大きなおカネを遣うときはそれなりに慎重に検討するのに、少額の支払いには無頓着な会社があります。
このような会社は「儲からない会社」です。
社内規則で、1万円以上の支払いだけ稟議をする、といった金額基準を設けている会社は多いでしょう。
これは実務的に仕方のないことではありますが、1万円未満の支払いの中にもムダな経費、不正な支払いがないか目を光らせなくてはいけません。
それができない会社は、「儲からない会社」に転落します。

冒頭の彼女は、毎日500円節約するから、祝儀の3万円を払えるのです

B to Bに必要な「個人力」、B to Cに必要な「組織力」

 

B to Bは会社が会社にモノを売る商売、B to Cは会社が個人(消費者)にモノを売る商売ですね。

自社がB to Bの売る側の会社だとしたら、求められるのは、「組織力」でしょうか、「個人力(個人の能力)」でしょうか。
会社対会社なので、何となく、「組織力」と答えてしまいそうになります。
しかし、実際のビジネスの現場、売る現場では、「逆」でしょう。
会社にモノを売り込むとき、大きな会社同士の商売であっても、結局、担当者同士の1対1がほとんどです。
B to B = 担当者 to 担当者、です。
こちらの担当者一人の売る力で、ビッグビジネスを獲得することも可能です。

自社がB to Cの売る側の会社だったら、そうはいきません。
不動産屋さんなどを除けば、一人でビッグビジネスを獲得することはできません。
店舗に販売力の高いスタッフがいることは良いことですが、その人の個人力だけに頼っていては会社が必要な売上・利益を確保することは難しいでしょう。
それを確保するためには、多少販売力の劣るスタッフでも相応に売っていける組織的な仕掛けが必要です。
スモールビジネスを積み重ねるB to Cでは、「積み重ねる」「数を取っていく」ための組織力が必要なのです。

このようなB to Bの「個人力」、B to Cの「組織力」は、マスト(必須)なものではないかも知れません。
会社にモノを売るとき、担当者にスペシャルな売る力が無くても、自社のネームバリューや商品力でそこそこ売れるでしょう。
消費者にモノを売るとき、組織的な仕掛けが無くても、デキる販売員個人の力でそこそこ売れるでしょう。
しかしそれでは利益もそこそこです。
しっかり儲けるためには、それぞれに必要な「組織力」「個人力」を上乗せする必要があるのです。

次世代に先送りしていけないのは、プライマリーバランスの赤字

プライマリーバランス

 

次世代に先送りしてはいけないもの、それは「大きな借金」ではなく、プライマリーバランスの赤字です。

プライマリーバランス(基礎的財政収支)とは、国が会社と同じように決算をしたとすると、「損益計算書」の営業利益に当たります。
営業利益=売上-経費
ですから、本業の収支、本業のもうけを表しています。
プライマリーバランスも、国債の発行や、国債の元利支払いを除いた、国の本業部分の収支です。

借金である国債1,000兆円は大きな数字ですが、それ以上に十分な資産があり、高い成長率があるのであれば、必ずしも致命的な問題ではないでしょう。
民間企業でも装置産業であれば、年商の何倍もの借入がある優良企業もあります。
問題は、プライマリーバランスの赤字、つまり営業赤字です。
営業赤字を続ける会社に、健全企業はありません。
営業赤字を続ける会社は、一つ残らず問題企業です。

国も同じでしょう。
一年だけ赤字なら、それは震災などの特殊要因のせいかも知れません。
数年間赤字なら、それは産業革新に対応した先行投資かも知れません。
しかし、日本のプライマリーバランスは1992年の黒字を最後に、四半世紀赤字を続けています。
いろんな事情があるとは言え、これはもう「体質」になっているのではないでしょうか。
今あるものは削ったり手放ししたくない、足りなければ借りたら何とかなる、という体質。
極端な言い方をすれば、
「お金が無いのに惰性でパチンコに行く」
ような借金体質です。
次世代に1,000兆円の借金を引き継ぐのは仕方ないとして、この「体質」は引き継いではいけません。
子供に「親子リレー住宅ローン」を引き継ぐのであれば、それをきちんと返していける術を身につけさせる必要があります。
借金は引き継いでも、「借金体質」は引き継いではいけないのです。

脱「おしん」世代の、働き方改革

 

ときどき会社の近くの農家を訪問することがあります。
田んぼの真ん中にある築70年の古民家を借りて手直し、ベトナム実習生の寮にしているからです。
ときどきその寮をチェックに行くのですが、いつ行っても貸主の農家の老夫婦は畑で仕事をされています
80歳くらいのおばあちゃんと立ち話をすると、その黒光りした顔に刻まれた深いしわを見て、半世紀以上も毎日毎日田んぼや畑に出続けている暮らしを想像して、いつも少し胸が苦しくなります。

50代前半の私たちの世代は、「貧しさ」から抜け出すために働いたという経験はありません。
しかし戦前生まれの親からは、戦中戦後の「貧しさ」の話をたくさん聞いて育ったので、「おしん」の世界観、「清貧の尊さ」が、どこか頭や体に染みついています
おばあちゃんのしわを見て胸が苦しくなるのは、そのせいでしょう。

しかしその感覚はこれからの経営には不要です。
むしろ「障害」になりかねません。
例えば、今徐々に農業を志す若者が増えています。
農業に従事しようという女の子が、50年後、黒光りした顔と深いしわになっていては絶対ダメです。
テレビCMでは、朝から晩まで、きれいな女優さんがキレイな肌を保つための化粧品をPRしています。
どんな女性もいつまでも白く美しい肌をキープしたいでしょう。
「農業を志すなら、白い肌は諦めなさい。
黒光りした肌と深いしわが、農業の誇り」
などと考えてはいけないのです。

工場で働く男の子たちもそうです。
「旋盤工なら、指が1本無くなってはじめて一人前になるんだ」
などと考えてはいけないのです。

これからの若い世代は、「おしん」を見ても感動するどころか、「ナニコレ」でしょう。
それが当たりまえですし、それでいいのです。
農業に従事しても日焼けしない、旋盤工に従事しても指がなくならない、そういう労働環境をつくることこそが、これからしなくてはいけない「働き方改革」です。
それが出来れば、これまで人が集まらなかった職種に人が集まるようになるでしょう。

私たちの「労働観」もアップデートしなければいけません。

JOCエリートアカデミー、「選手ではなく、システムに投資する」

 

テレビ番組で、「JOCエリートアカデミー」のディレクターの方がお話をされていました。
アカデミーでの選手強化の手法は、
「選手に投資するのではなく、システムに投資する」
のだそうです。
JOCエリートアカデミーは、日本オリンピック委員会(JOC)が、将来のメダリスト輩出のために設けた中高生対象の養成所。
あの卓球の張本選手も在籍しています。

「選手ではなく、システムに投資する」
それは、有望選手を発掘して個別の強化を施す、という手法ではなく、
いろんな選手が利用できる育成システムを用意して、それを継続的に進化・高度化させる、という手法です。
そのシステムに乗っかった選手たちが、結果的に強化される、という考え方です。
これはおそらく、エリートアカデミーに限らず、JOCの方針でもあるでしょう。

「選手ではなく、システムに投資する」メリットは何か。
それは幅広くタレントを発掘できる、ということではないでしょうか。
そもそも、誰が将来金メダルを取るか、なんて誰にも分かりません
今世界一の選手でも、2年後ケガやスランプに見舞われているかも知れません。
ヘタに誰かを選ぶより、出来るだけ多くの選手が利用できる育成システムを用意して、それを絶えず進化させていく方が、堅い投資になるでしょう。
それが上手く機能すれば、注目されていなかった選手群からもトップアスリートが波状的に生まれ、代表レベルの選手層がぐっと厚くなります。
陸上男子100mの充実ぶりなどは、その成果かも知れません。

これは会社経営にも通じます。
「人ではなく、システムに投資する」
会社は、「人」次第であり、「人」の成長がキモであることは間違いありません。
しかし、特定の社員を集めて実施する「幹部候補者研修」は、必ずしも投資効果の高いものではありません。
それよりも日々の仕事の中に社員が成長するための仕掛けがちりばめられている方が、より多くの社員に成長のチャンスを与えられるでしょう。
その仕掛けが、「教育システム」として継続的に進化させられれば理想的です。
そうすれば、思わぬところから思わぬ人材がポツポツ出てくるものです。

霞が関や上場企業は、エリートをMBA留学させます。
「とりあえず、勉強して来い」と。
「人」に多額の投資するわけです。
しかし、お金が少ない、そんなエリートもいない中小企業は、
「とりあえず、勉強して来い」という「人」への投資は、やってはいけません。
そのお金を、「システム」に振り向ける方が賢明です。
「思わぬところから思わぬ人材がポツポツ出てくる」システムです。