人事戦略のキモのキモは、「賃金カーブ」の明示

 

人事戦略を立てるとき、先ず取り組むべきは、「賃金カーブ」を描く(設定する)ことだと考えます。
「賃金カーブ」は、ご存知の通り、横軸が年齢、縦軸が給与額のグラフです。
入社後、年数が経つにつれ給与額が上がり、50歳過ぎにピークに達し、その後は下がっていきます。
会社の規模や職種で給与額の差こそあれ、曲線の形は似たようなものでしょう。

大企業では当たり前に社員に明示されている「賃金カーブ」。
しかし中小企業では、社員がいつでも見れるように開示されているケースは稀でしょう。
従業員数10名以下(ここでは小企業と呼びます)では、賃金カーブ自体が設定されていないのが普通です。

社員の立場になれば、この賃金カーブは非常に大切です。
自分がこの会社で仕事を続けていけば、将来給与はこうなる、というグラフ。
将来設計にも直結することですから、これ以上の関心事はないでしょう。
そういう社員の関心は、大企業も中企業も小企業も違いはありません
ですから、社員のためには、規模に関わらず、すべての会社が「賃金カーブ」を明示した方が良いと思います。

一般的に、賃金カーブは、「給与テーブル」を元に作成すると思われています。
ちゃんとした給与規定と「給与テーブル」が無ければ描けないと。

そんなことはありません。
給与規定が無くても、給与テーブルが無くても、賃金カーブは描けます。
社長が、目をつむって、社員たちをイメージしながら
「ウチの社員には、年齢に応じてこのくらいの給料をとれるようになってほしい。
30歳でこれくらい、35で、40で、45で、50でこれくらい」
それを結んでグラフにするだけです。
そうやって描いた賃金カーブは結局、
「ウチの社員には、年齢に応じてこれくらいの仕事ができるようになってほしい。
30歳でこれくらい、35で、40で、45で、50でこれくらい」
という、社員に対する「成長期待」のグラフそのものなのです。
「成長期待のグラフ」=「会社への貢献度のグラフ」=「賃金カーブ」と考えてもいいでしょう。

繰り返しますが、一番大切なのは「賃金カーブ」です。
給与テーブルなんて「おまけ」みたいなものです。
もし社員全員が自社の賃金カーブより上にいるとすれば、それは本当に素晴らしいことです。
それは全員の成長度合い、貢献度が標準以上ということ。
決して人件費がオーバーしているとネガティブに考えてはいけません。
本当にネガティブな状態であるなら、それは評価の仕方が間違っているのです。

逆に賃金カーブより下に位置する社員には、
・なぜ下になっているのか
・どうしたら賃金カーブ以上になるのか
を伝えてあげましょう。

オープンで公正な人事が、社員の成長を後押しします。
賃金カーブは、会社(社長)が求めるものと、社員が目指すものを一致させる大切なグラフなのです。

「雨乞い」のような経営会議

 

黙って聞いていると、「雨乞い」をしているような経営会議があります。

ある会社の月例の経営会議。
試算表の損益計算書で先月の損益を確認。
その後、「資金繰表」で現在の資金状況と3ヵ月先までの資金予定を確認します。
そこで、3ヵ月後の月末返済が相当厳しいことが分かります。
一番大きな銀行借入が3ヵ月ごとの元利金返済になっているからです。

そもそもこういう3ヵ月ごとに返済するような借入を起こしてはいけません。
3ヵ月ごとの返済のほとんどは、固定金利借入です。
銀行は固定金利で貸すと、貸出実行時に手数料が入ります。
支店にとって「おいしい手数料」。
もし銀行が貸付するときに「固定金利」を提案しても、断れば良いのです。
「固定金利でなければ貸さない」とは、銀行は言ってはいけないのですから。

なぜ3ヵ月ごとの返済にしてはいけないのか。
それは単純に、会社は1ヵ月のサイクルで仕事をしているからです。
どんな商売であれ、売りも買いも月末で締めて、翌月の決まった日に入金・支払があります。
もちろん給料支払いも。
借入返済もこのリズムでこなしていかなければいけません。
3ヵ月ごとにドーンと大きな返済が入ると、どんな会社でも資金繰りが難しくなってしまいます。

まあ、すでに借りてしまったものは仕方ありません。
返済の無い月にきちんと資金を積み立てて置くほかありません。
しかしこの会社の損益状況は、必要額を積み立てることが出来ていない状況です。
そこで財務担当の役員が、
「このままでは3ヵ月後の返済は相当厳しいです。
それまでに各部門とも売上をしっかりとってください
何の根拠もなく売上増を待ち望む。
まるで雨乞いです。
こんな雨乞い発想になるのも、ヘタに3ヵ月という猶予があるからでしょう。

他のことはともかく、資金繰りだけは「雨乞い」になってはいけません。

ゾゾタウンのプライベートブランド(PB)に大注目 !

 

ファッションにはほとんど興味が無いのですが、「スタートトゥデイ」は非常に興味深い会社です。
ファッション通販サイト「ゾゾタウン」の運営会社ですね。
前澤社長の経歴や、一日6時間労働、ボーナス支給額全員同一、ツケ払い、など話題に事欠きません。
それでいて業績絶好調、2017年3月期の営業利益が初めて三越伊勢丹を抜きました
時価総額にいたっては、1兆円を超え、三越伊勢丹グループの4,400億の倍以上
に成長しています。
注目度もますます高くなっています。

そんな中で発表されたゾゾタウンのプライベートブランド(PB)商品投入。
これは意外でした。
国内のメジャーブランドの大半を取り込み、「持たざる経営」で躍進を続けてきたゾゾタウン。
それが「持つ経営」に参入する。
当然ゾゾのお客さんでもある出店ブランドにも配慮を要するでしょう。
業績絶好調でありながら、このシフトをしなければいけない。
このニュースで、「持たざる経営」の成長の限界を感じてしまいます

スタートトゥデイに限らず、ITで急成長した会社は、どこかの時点でリアルを手に入れようとします。
急成長で肥大した時価総額を使って。
ソフトバンクは通信を。
DeNAは球団を。
楽天は金融と球団を。

スタートトゥデイのリアルの第一手がPBでした。
このPB戦略はまだ中身がハッキリ公表されていません。
ですが、PBの成功パターンは他業態を見ても次の2通りしかないように思います。
➀セブンイレブンのPB
ナショナルブランドに負けないクオリティを、値ごろ感のある価格で提供するPB
→ 出店者と競合パターン
➁ユニクロの機能性PB (ユニクロの場合PBとは言わないでしょうが)
エアリズムやヒートテックなど、機能で新規顧客を開拓するPB
→ 出店者と非競合パターン

日本で一番たくさんの売れ筋情報を持っているスタートトゥデイの、次の一手に大注目です。

中小企業は、「CFO(最高財務責任者)」をチョイ借りする

 

上場企業には必ずCFO(最高財務責任者)がいます。
CEO、COOと共に経営を担う、重要なポストです。
それぞれの役割は、
CEO (最高経営責任者) ・・・ 経営戦略立案
COO (最高執行責任者) ・・・ 事業戦略の立案と実行
CFO (最高財務責任者) ・・・ 経営検証、財務戦略の立案と実行
プラン(CEO) → ドゥ(COO) → チェック(CFO) → プラン
のサイクルを回すためにも、それぞれの機能が必要です。

一方、中小企業では、社長や常務が実質的にCEOとCOOとなっています。
しかし、CFOはいません。
経営戦略を立てる人、それを実行する人はいるのですが、検証する人がいないのです。
上場企業・大企業と中小企業の経営体制を比べたとき、最大の違いが、この点にあるのではないでしょうか。
プラン → ドゥ の後のチェックが十分になされない。
十分にチェックされないまま、次のプラン → ドゥ。
とにかく一所懸命、プラン → ドゥ。
ちゃんと検証できる、それをしっかり主張できるCFOがいたら、余計なプラン → ドゥを繰り返さなくて済みます。

とは言え、規模が小さい中小企業では、役員レベルでCFOを抱えることは難しいでしょう。
また逆に、CFOが常勤するほど、財務の仕事量は多くないでしょう。
そこで、おすすめしたいのは、CFOのシェアです。
今後は「働き方改革」で社員の副業が当たり前になります。
中堅以上の会社で財務を担当している社員・役員をチョイ借りするのです。
今はまだ一般的ではありませんが、あと2、3年もすれば人材のシェアは当たり前になります。
CFOは難しい仕事ではありませんが、専門性が必要です。
今バリバリやっている人をチョイ借りするのが最も確かで、最も安上がりです。
今のうちに取引先や知り合いの会社でCFO候補を物色しておくといいでしょう。

CEOとCOOは自前、CFOは借り物、が中小企業に合っています。

最近のM&A事情、 売りたい理由と買いたい理由

 

先日、証券会社主催の講演会に行ってきました。
講師は、M&A仲介会社の社長さん。
国内のM&A仲介実績№1の会社です。
その会社が扱う案件の大半は、中小企業の売買とのこと。
一昔前、M&Aは「大企業がするもの」というイメージでした。
しかし今は件数だけで言えば、中小企業売買が主戦場なんですね。

「会社を売りたい」中小企業の経営者は、今非常に多いのだそうです。
と同時に、その何倍も、「会社を買いたい」経営者がいるのだとか。

売りたい理由のほとんどは、「後継者がいない」というもの。
しかしこれは、経営者に子供がいない、ということではありません。
「後継してくれる人がいない」
「後継できる人がいない」のです。
売りたい経営者の心情としては
「会社の現状・先行きを考えれば、子供に後継させて苦労させたくない」
というのが実情ではないでしょうか。
会社がピカピカな状態であれば、息子であれ娘婿であれ社員であれ、後継者は自然に出てくるものです。

一方、買いたい理由の大半が、「M&A以外に成長戦略を描けない」というもの。
「他の会社を買収する」 と聞くと、勢いのある会社と元気な社長を想像します。
しかし、必ずしもそうではないようです。
ITなどの成長分野ではない、旧来型の業種の大半は、市場全体の成長が止まっています。
その中で会社を成長させるには、他社の売上を横取りするしかありません
市場で戦って取るか、M&Aで買収して取るか。
比較してリスク・コストの少ない後者を選択しているのです。

つまり、市場全体が成長しない事業環境の中で、「売りたい会社」・「買いたい会社」とも、この先どうするかの選択を迫られているのです。
「やめる」を選択した会社は売り側に回り、「続ける」を選択した会社は買い側に回る。
売り手と買い手の違いは、たったそれだけかも知れません。