お布施ローン

お布施ローン

 

大学を卒業して、銀行に入社した1年目のこと。
融資関係の帳票が入っている棚を整理していると、
「〇〇提携ローン申込書」
というのを見つけました。
○○は宗教法人名です。

先輩に「この申込書は何ですか」と尋ねました。
先輩は「あまり使うことはないけど、お布施ローンだね。
信者さんが、お布施したいけど手元にお金がないときにローンを組むんだ。
上限は200万。
宗教法人が保証してくれるから、銀行も貸し倒れになるリスクはないんだよ」
と教えてくれました。

新入行員の私には、ちょっとしたカルチャーショックでした。
世の中、こんなことが行われているのかと。
と同時に、「うまいこと考えるなー」と感心してしまいました。
先輩の説明の通り、銀行にとっては大きな宗教法人の保証があるのでノーリスク。
宗教法人にとっても、入ってくるお金について保証するだけなので、ノーリスク。
途中で信者さんが返済できなくなっても、残金を宗教法人が代わりに払えばすべてまるく収まります。
返済が進んだところまでが実質的なお布施になるのです。

他人の「連帯保証」は絶対してはいけない、と言われます。
私もそう思います。
しかし「お布施ローン」方式なら、連帯保証しても良いかも知れません。
例えば、誰かにお金を貸していてなかなか返してくれないケース
相手に銀行から借り入れをさせて、そのお金で返してもらう。
その銀行借入だけは連帯保証する。
金融機関を間に入れることで、返済の強制力が強くなり、最終的に回収する可能性が高くなるのです。

新規事業は川べりで始める

新規事業は川べりで始める

 

新規事業にチャレンジするときには、
「自分のアイデアを世に出せば、お客が集まってくる」
と考えてしまいがちです。
それくらいの自信とヤル気と少々の勘違いが無ければ、新規事業の立ち上げは出来ないかも知れません。
しかし、それは
「世の中の流れがどうであろうと関係ない、流れは自分が作る」
と考えているのと同じです。
とてつもなく難しいことを自分に課してしまっているのです。
ただでさえ難しい新規事業の立ち上げを、さらに難しくするわけですから、成功確率はドンと下がってしまいます。

以前、アパレル大手W社の専務からアドバイスを受けたことがあります。
「商売するときは、川がどこを流れているかをよく見て、その川べりでせなあかん。
流れのないとこでは、何やっても、なんぼ頑張ってもムダや
当時絶好調だったW社でさえ、川を探して、川べりまで商品を持って行って、商売をしていたのです。
一番売れやすい場所を探し、売りやすい方法で売る。
自分が流れをつくる、なんて考えていません。
考えているのは、商売を出来るだけ簡単に、簡単に、簡単に

冒頭のように「お客が集まってくる」と考える人ほど、事業開始後の現実に慌てふためきます。
この慌てふためくことが、事業を迷走に向かわせます。
ですから、新規事業に取り組むときは、
「どんなにいいアイデア・いい商品であっても、世の中の人にはなかなか伝わらない
というところからシナリオを書くくらいでいいのではないでしょうか。
そうすれば、一番売りやすい場所、一番売りやすい方法をたくさん考えるようになるでしょう。
「最初の2、3か月はほとんど売上は見込めない」
そう考えていれば、事業開始後しばらく売上が立たなくても、迷走することはないでしょう。

考えてみれば、本当に優れたアイデア・優れた商品であれば、あとはお客にアプローチするだけのはず。
お客が集まるのを待つまでもなく、こちらから持って行けば良いのです。
お客に知ってもらい、手に取ってもらい、体験してもらう仕組みを地道に構築していけば、着実に売上は上がります。
慌てる必要はありません。

繰り返しになりますが、
アイデア・商品に対する過度の自信 → お客が集まるという妄想 → 現実は売れず → 焦り → アイデア・商品への自信喪失 → 迷走
という「負の連鎖」に陥ってはいけません。

人材バブルの今、ムリな採用はしない

採用

 

先月末、5月30日に厚労省から発表された、「一般職業紹介状況」によると、4月の有効求人倍率は1.48倍
最高は福井県の2.06倍、最低は北海道の1.13倍。
最低の北海道でさえ、1.0倍以上です。
正社員有効求人倍率も0.97倍と、ほぼ1.0倍近くまで上がってきています。

先日書いた通り、地方の高卒求人倍率は実質2倍、内定率も99%以上。

< 2017/5/23  地方の高卒採用事情、求人倍率2倍の異常 >

こうなると完全に、「人材バブル」です。
内定率がほとんど100%ですから、選考で落とされる人がいないということ。
悪い言い方ですが、どんな商売でも売れ残りが数パーセント発生して当然です。
売れ残りがまったく無いのは、バブルの証拠。

30年前のバブル時代、どんな不動産でも売れました。
路地の奥にある、草ぼうぼうの小さな空き地、隣のアパートの浄化槽の臭いがひどい物件でさえ数千万で売れて行きました。
バブルは、みんなが実需の無いものを手に入れようとするから起きるのです。
今、手に入れなければ損をする、と。
しかしバブルが崩壊すれば、なんであの時あれだけ焦って手に入れようとしたのか、となります。

現在の求人もそんな状態に見えます。
今そこまで逼迫していないのに、「今採っておかないと、将来大変なことになる」と考えている会社が相当な割合あるのではないでしょうか。
こういうバブルに乗っかるのは危険です。
とくに新卒は限られた数からの取り合いですから、中小企業がいい人材を採れる可能性はグッと下がっています。

私たちの会社も、新卒採用活動を頑張りますが、いい学生と出会えなかったら「採用ゼロ」で良し、と考えることにしました。
2、3年待ってみる、という戦略もあります。

下請法改正で、約束手形が無くなる

下請法改正で、約束手形が無くなる

 

先週、取引先のA社から経理に電話がかかってきました。
こちらの銀行口座の確認でした。
聞けば、今月分の代金から銀行振込で支払う、とのこと。
「えーーーっ !!」 「ファクタリングがなくなるのー!」

一部上場のA社は15年前、支払方法を約束手形からファクタリングに変えました。
A社とこちらの間にファクタリング会社が入り、その代金を期日まで管理するのです。
もともとA社の支払い条件は、4ヵ月サイト(長さ)の手形。
ファクタリングになっても、その「4ヵ月」という支払いサイトは変わりません。
こちらは手形がないので、それまで使っていた銀行の「手形割引」が使えません。
その代わりに、こちらが頼めばファクタリング会社は、管理している代金の中から、頼んだ金額だけ資金化してくれます。
もちろん期日までの金利を差し引いて。
このファクタリングへの変更の目的は、手形発行の手間とコストを省くため。
大企業であれば、手形に貼る印紙代だけでも相当な金額になるでしょう。
私たちにとってのメリットは何もありませんでした。

しかし今回は違います。
月末締め、翌月末の現金(振込)支払になるのです。
代金の受け取りが4ヵ月早くなるのです。
もう50年以上続いてきた約束手形がなくなる。
こちらが舞い上がってしまうような大転換です。
とても経理に電話でちょちょっと伝えるようなことではないと思うのですが。

私たちの会社の売上の7割はA社向けです。
その代金4ヵ月分、数億円が、貸借対照表の「売掛金」に常に計上されています。
それがバサッと無くなるのです。
私はにわかに信じられず、A社の本社に電話で確認しました。
間違いありませんでした。
昨年末に政府から出された、「下請法改正の通達」に対応したもの、とのこと。
その中で、約束手形の支払いサイトを最長120日から60日に短縮することが求められています。
A社は好調な業績を背景に、一気に現金払いに切り替えたのです。

この大企業の支払サイト短縮の恩恵は、私たちの会社だけでなく、近いうちに日本中の中小企業に広がるはずです。
これは日本経済に必ず好影響を与えます。
この20年間、大企業には内部留保が一貫して貯まり続け、中小企業に回ってくることは一切ありませんでした。
それが「支払いサイトの短縮」を通じて、大企業にモノを納入している中小企業に資金が移転するのです。
中小企業が元気になることは、間違いなく日本経済活性化につながります。

ところで下請法は大企業だけを指導するものではありません。
資本金1千万超3億未満の会社が、資本金1千万以下の会社に支払う場合にも適用されるのです。
私たちも今振り出している約束手形を見直す必要があります。
順次、支払手形を現金払いに切り替えていきます。

約束手形がなくなる日、それはすぐそこまで来ています。

グループウェアの「罪」

グループウェアの「罪」

 

グループウェアを導入する会社が増えてきました。
パソコン内(サーバー内)のグループウェアソフトを使って、スケジュールや情報の共有、「既読確認」付の社内メッセージ、社内稟議など、非常に便利になりました。
おかげで机から机に回されるリアルな回覧板が一切なくなりました。
以前は、「あの稟議書、どこまで回ってる?」と大騒ぎしながら、管理職の机の上を探したものです。
そんなオフィスの光景もなくなりました。
グループウェアは一度使い始めると、その便利さで、すぐに無くてはならないものになってしまいます

しかし本当は、無くても全然大丈夫です。
私たちの関連会社には、グループウェアが導入されている会社と導入されていない会社があります。
両方の会社で仕事をしていると、グループウェアの「罪」も見えてきました。

一番の罪は、過度な情報共有でムダなコストが発生すること。
例えば、退職者が「社内メッセージ機能」を使って退職の挨拶を全社員100人に送ったとします。
「本日をもって退職いたします。在職中はみなさんにたいへんお世話に・・・・」
このメッセージを100人が開いて確認します。
そして100人のうち30人が、
「お疲れさまでした。新しい環境でのご活躍を・・・・」
というメッセージを返します。
その30人のメッセージをまた100人が開いて確認します。
これだけのやり取りにどれだけの時間を使ってしまうか。
100人の社員が確認するメッセージは、のべ3,100件。
メッセージを開いて閉じるまで、1件当たり20秒かかると仮定したら、
3,100件✕20秒=1,033分=17時間13分
社員100名の平均時給が1,800円とすると
17時間✕1,800円=30,600円
実に会社全体で17時間、3万円を浪費したことになります。
一人の退職の挨拶に。

また、このような情報共有が増えると、社員は何か情報が来ていないか頻繁にグループウェアをチェックするようになります。
プライベートな時間に頻繁にスマホをチェックするのと同じように。
便利なグループウェアも使い方を間違えると、「情報共有」という御旗のもとに社員の時間を盗み、不要なコストを発生させてしまうのです。
グループウェアを使っていて業績が上がらない会社は、使い方のルールを徹底するか、思い切って一度やめてみるのも良いのではないでしょうか。
きっといいことがありますよ。